悪魔召喚3 現場に突撃!
一華は一度も家族や友人のところには行っていない。行こうと思えばいつでも、一瞬で行けるのだが。行ってしまえばまた昔のように暮らしたいと願ってしまうのは間違いない。表面上は受け入れていても、まだ心の中では整理がついてないだろう。
「そういうのが自分でわかってるからいいんだよ。わかってないようなら頼まない。ま、そういう気遣いは俺じゃなくて小杉の仕事。なんやかんやで年近くて同性の小杉には懐いてるからな一華は。なんかあったら頼むわ」
「わかりました。サトさんなりに心配してるのか、めんどくさいから押し付けてるのか微妙ですけど」
やれやれといった様子で小杉はため息混じりに呟いた。ただ、中嶋の言っている事は正しいので反論することはできない。
『わああああああああああ!』
「うお!?」
突然の叫び声に中嶋が飛び跳ねる。今出かけたばかりの一華が物凄い勢いで戻ってきた。そして神棚の前にはり付く。
『観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空』
「幽霊が般若心境唱えるなよ。コエーだろ」
「っていうか一華ちゃんいつの間に般若心境を」
絶対自分が除霊されそうになった時だろうな、とは思うが。
「で、何があった」
『凄いことがあった! なんか呪いの儀式みたいのしてた! 血がどばーって!』
「嫌がらせのフルコース散々やっておきながらなんでそっちのアナログに走るんだ」
そんなものに頼るよりも先にやっている迷惑行為のほうが余程効果があると思う。
「先ほどのお話だと警察には相談したそうですし、厳重注意でもされたのでしょう。だからこっち系?」
小杉も言いながら首をやや傾ける。中嶋は思い切り半眼で「ねえよ」とつぶやく。
『とにかく! 今だったら直接乗り込んで証拠写真が撮れるよ! ゴー!』
ハリーハリー、と追い立てる一華に、小杉は困った様子で一応聞いてみる。
「簡単に言うけど不法侵入は言い訳できないよ一華ちゃん、私達は生身だし」
「何も警察みたいにドア蹴飛ばして怒鳴り込みながら入る必要ない。入ったのがバレなきゃいいんだよ。んじゃ、俺行ってくるわ」
いつの間に準備したのかコートと外回り道具一式入ったカバンを片手に、シュタっと手を立てて中嶋は車へと走る。一華は中嶋についていった。残された小杉は自分のデスクへと向かうが、ふと思う。
「怪しい儀式撮っても嫌がらせの証拠にはならないんじゃ」
なんとなく一華のノリと勢いに乗せられて行ってしまった感が否めない。ちょっとカワイソウな人の写真が撮れるだけだと思うが、その辺りはどうするつもりなのか気になったが、どうせ今連絡を入れてもおそらく運転中で取らない。それにその場でどうにでもしてしまうのが中嶋聡という人間だ。
運転をしながら中嶋は一華から詳しい状況を聞いていた。ターゲットの女性は一軒家の実家住まいで家の中で怪しい儀式が行われていたらしい。防犯システムなどのステッカーはなし、家族の姿もなく一人でいるようだった。中嶋はふむ、と少し考え込む。
「どうするかなあ。さっきはああ言ったけど警察のフリしてもいいか」
『それ下手するとものすごく大事になっちゃいません? どうごまかすんですか?』
「んなもん、その場の勢いと口車でなんとでもなるだろ。勢いよく突っ込んで写真とって『テメエ首洗って待ってろ』みたいなこと言ってトンズラすれば完璧だ、五分もかからない。あれ? 本当に警察だったのかな? 何で今すぐ逮捕しなかったの? と思う頃には俺達はいない。その後のことは知らん」
『完全に犯罪者じゃん』
一体今までどんな手段を講じて尾行や追跡調査をしてきたのか、一度じっくり話を聞いてみたくなる。神棚に毎日拝んでいてもバチが当たりそうな事ではありそうだ。
『そんな事したら所長にぶっ飛ばされそうな気もしますけど』
「だよなあ。前も似たような事したら給料減らされたからな」
やったのか、とは突っ込む気力もない。所長の佐藤もわけのわからない性格をしているらしいが、一応その辺の常識というか業界の暗黙の了解は守る性質の人らしい。一華は会ったことがないが。
探偵業はアニメなどの世界と違って警察には目を付けられやすい。自分達だけでなく同じ業界の人間からも嫌われてしまうと動きにくくなる事もある。