ストーカー10 ドッキリ大成功……あれ?
少し待つと依頼人の家の近くに着いた小杉から連絡があり、男が近くまで走って来ている事が伝えられる。
「よし、男を部屋に入れるから入ったら写真撮れよ。後は身分証見せて警察に連絡だな」
再び女性は少し服を乱し、髪をボサボサにして目薬をさす。正直ここまですると裁判の時男側から訴えられそうな気もするが、警察との対応は小杉に任せて中嶋は男の家に行って証拠集めをする事にしている。強引だが、後は法律に詳しい事務所の人間に助けを借りればなんとかなるだろう。
小杉からの連絡で男が女性の部屋の前についた事を聞き、再び荒っぽい演技を始める。
外から様子を伺っていた男は玄関に直接耳をつけ音を聞いている。どう見ても不審者100%怪しさ大爆発なその姿に、小杉も内心それはないんじゃないかと思ったほどだ。
数秒もたたず男は我慢できないといった様子でインターホンを物凄い勢いで鳴らしまくる。
「高橋名人かよお前は」
呆れた様子で中嶋が女性から離れ、玄関に向かうがそこに立ちはだかるのはプードルカットのアルパカ。目が合い口元を押さえながら、玄関の鍵を開けて思いっきりドアを蹴り開けた。
「ぐは!」
まさか勢いよく開けられると思っていなかったらしく男はドアが直撃し、顔面を打ったらしくその場でもんどりうつ。
「うるせえよ」
ドスを効かせた声でガラ悪く対応する。男は真面目な性格で決して荒事に向いていないという分析結果が出ている。一応あんな光景を見せたのだからここで普通の人間を演じる必要もないだろう。女性を想ってきたのならこの程度で怯んで帰るとは思えない。
すると脇にいたアルパカが中嶋に頭突きをし始める。どうやら主を守ろうと必死のようだ。しかしその頭突きは悲しいかな、マザー牧場で戯れてくるアルパカそのもので何のダメージもない。ちょっとふかふかの毛がドンドン当たるくらいだ。チラリと見るとアルパカが涙目になって中嶋を見ている。
(やめろアホ)
こちらは笑いを堪えるのに必死だというのに。総弦のように法力があればここでアルパカに蹴りの一つも入れるところだが、中嶋が直接霊体にダメージを与える事はできない。あちらからは触れるのにこちらからは触れない、理不尽だ。
アルパカに気を取られていると男は勢いよく立ち上がり、中嶋の脇をすり抜けて部屋に入ってしまった。
「は? おいちょっと待て」
物凄い素早さに思わず中嶋の目が点になったほどだ。外で待っている小杉にイヤホンマイクですぐ来るよう指示をし、部屋に戻った。
いきなり男が入ってくるとは思っていなかった依頼人も驚いた様子でポカンとしている。
「か、香織ちゃん! 大丈夫!?」
「いや、お前が大丈夫か」
後ろから冷静に中嶋が声をかける。ドアに顔面をぶつけたらしい男はドバドバと鼻血を流し、しかし必死に女性に訴えかけていた。
「いや、え? えーっと」
「もう大丈夫だから! 僕が守るから! こ、こいつ嫌がる香織ちゃんになんて事を!」
女性を背に庇い両手を広げて通せんぼをし、中嶋を睨む男(ただし鼻血ブーである)にさてどうしたものかと中嶋も困る。玄関で一悶着をして、無理やり入ってきたところを小杉が写真に撮るという計画だったのだが。こんな事なら自分もカメラを持ってくるんだったと後悔した。
しかし入ってしまったのは仕方ないし、こうなれば状況はこちらが有利だ。ふう、と一息ついてポケットから探偵身分証を出して見せる。
「はい、ドッキリ成功~。こちらの中根香織さんから依頼されてストーカーホイホイをしていました。貴方は不法侵入とストーカー行為でこれから警察のお世話になります。やったね渡辺徹君」
「え?」
「え?」
「は?」
次々と上がる疑問符。まず最初のえ? は渡辺徹だ。今までのが演技で中嶋が探偵である事に驚いた声。そして次の声は何故か依頼人の中根香織、最後にその声に反応して思わず声を上げた中嶋だった。
「渡辺徹? まさか徹君?」
「え、あ、うん」
驚いた様子の中根に小さく頷く渡辺、そしてわけがわからない中嶋。
「ちょい待ち、どういう事?」
「私が幼稚園の時一緒によく遊んでたんです。急な引越しで突然いなくなっちゃった徹君なの?」
「うん」
「もしかして、それで私の事調べて……ごめんね、徹君って気がつかなかった。だっていつも渡辺さんとしか呼ばれてないし、よくある苗字だから」




