悪魔召喚2 遠藤一華とは
もちろん一華のことは調べた。住んでいた場所も家族構成も死因もすでに知っている。通り魔殺人の被害者で犯人は現在も不明のまま。家族は悲しみに暮れながらも納骨まで済ませ四十九日も終わらせている。殺されたのなら自縛霊にでもなりそうだが、本人が覚えていないのでそうならなかったようだ。実際殺害現場ではなく探偵事務所に現れている。何故この事務所に現れたのかはいまだにわからないままだ。
いるならいるで仕事してみよう、という事になり浮気現場や尾行を頼むとこれが予想以上の成果だった。写真や録音ができないのが唯一ネックだが、全てを見聞きした一華が中嶋や小杉に憑依すると彼女の記憶がそのまま見ることができる。それを元に、証拠が取れる調査を裏から仕上げ完璧な調査としてあげることができるのだ。今や一華は佐藤探偵事務所になくてはならない存在になりつつある。
「これでお前が念写できるようになったら完璧なんだけどな。見た現場の写真作り出して、『怪しい場所に小型カメラ仕込んでおいたんです』っつうことにすれば楽だ」
『一応練習はしてますけどね。まだ心霊写真の類ですよ、ノイズっぽいのもあるし他の浮遊霊写ったり。まあ心霊写真特集の雑誌とかに売ればお小遣いにはなるんじゃないですか』
一華の言葉を聞きながら先日一華がやった念写の写真を眺める。そこには男女の絡み合う写真と、その男女を覗き込んで盛り上がっている数人の浮遊霊がいた。
普通の人間が見ればただの白いもやもや、しかし霊感のある中嶋の目にははっきりと中年男性達の姿に見える。
「死んでもおっさんの考えることっつーのはみんな同じなんだな」
呆れた様子で中嶋はその写真を捨てた。
「絶対あの女です、間違いありません。こんな事するのあの女しかいないんです! でも証拠もないし」
「つまり証拠をおさえて、やめるよう説得するか警察に被害届を、ということでしょうか」
「法的措置は取るつもりです。お願いします、証拠を掴んでください!」
依頼人と中嶋が会話をしているうちに、一華は依頼人にのりうつる。霊感のない人間ならとりつかれている事に気づかれずに記憶を探ることができるのだ。
依頼人がイカれていては話にならない。この話が本当かどうか調べてから調査の方向を決めるのが今のやり方だ。依頼人との信頼関係などという前世紀の幻想などありはしない。正義や倫理などではなく、探偵事務所など金の為にやっているのだからそのあたりの下調べは必要だ。
依頼とは契約、それは定義がある。自分は客なのだから何を言っても許されると思う依頼人は多い。ケチをつけるだけならまだいいが、自分が探偵ごっこのような事を始める者まで増えてきている。そういう時は厳重注意と悪質な場合は法的手段で黙らせている。
緊急性がある場合はその場で一華が口を挟むが、特にない場合は依頼人を帰してから今後の方針を練ることにしている。そうしないとうっかり一華の発言に相槌をうってしまい、変な奴だと思われてしまう。依頼人が帰ったのを確認して中嶋は一華に聞いた。
「で、どうだった今のは」
『噓とかはついてない。確かにターゲットの人とは昔からトラブルがあったみたい』
「殺してやるの脅迫文、無言電話、会社への実名挙げての迷惑行為に名誉毀損。ま、あげたらきりがないけどな。何で最近になってやり方がえげつなくなったのかは知らんがそこはどうでもいい、証拠見つけてサクっと終わらせるぞ。一華、トラブル女の張り込み頼む」
『はいはーい』
そう言って一華は消えた。生前行った事がある場所や知っている人物のもとには一瞬で移動できる。これも幽霊の便利な点だ、交通費がかからないし移動時間もない。ただし行った事がない場所などには通用しないので、一度誰かと一緒に行く必要はあるが。今回はバイトをしていた場所に近いという事で問題ない。
「でも良いんですか? バイトしていた場所に近いということは、知り合いを見つけるのでは」
小杉が心配そうに言う。今一華は特に未練も何もないので浮遊霊だが、何かに執着したり悲しみに暮れたりするとあっという間に自縛霊や悪霊になってしまう可能性がある。見た目では死んだことを受け入れているようだが、まだ十六歳の少女なのだ。生きていた頃の思い出を前に平然でいられるかどうかが心配だった。
「大丈夫だろ。バイト先に凄く仲良かった奴もいないみたいだからな。殺されてる以上殺した奴への憎しみが悪霊への道だ。そのときの記憶がないうちはそういうモンになる可能性は低い」
「そうですけど。そういうのになりたくないからってご家族の様子も見に行ってないんですよね一華ちゃん」




