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幽霊と探偵  作者: aqri
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生霊10 めでたしじゃなかったけど強制めでたし!

 一週間以上たった頃、探偵事務所に一人の客が現れた。


「おや、貴方は」

「先日は、どうも……」


 それは生霊にとりつかれていた男だった。以前見たときよりもだいぶやつれている、目の下にはクマがあり服装もどこかヨレヨレだ。下手をすれば死ぬような目にあっていた時よりも酷い有様に、何かあったのは間違いない。ふとこの間のボッコボコにした件が頭をよぎったが、あの時はあくまで総弦しか見ていないはず。総弦と男には直接の面識はないはずなので、何も問題ないとは思うが。


「どうしました? まさかまだ危険な目に?」

「いえ、それはもういいんです、なくなりました。ただ、先日お話した女がですね、私のところにやってきて」

「入院中で身動き取れないのでは?」

「え? ああそうでした、連絡がきたんです、そうそう電話です」


 どこか落ち着かない様子でたどたどしく説明する。以前女からの電話は鬱陶しいので着信拒否にしたとか言っていた気がするが、また話を折ってはいつまでも先に進まないのでやめた。相槌を打てば、やや早口で男はまくしたてる。


「それがですね、ええと私知らない男にいきなり暴行されたんです。そしたらあの女、何故かその事を知っていて。それでお前が差し向けたのかと問いただしたですが、いまいち話が要領を得なくて。ただひたすらその男の事を教えろと騒いでくるんです」

「はい?」


 なんとなく嫌な予感がして聞き返すと、今度は必死に中嶋に向かって訴えてくる。


「その人の事を知りたいから教えろと、ずっと私にくっついてくるのです! こっちは知らないと言っているのに聞きやしない!」


 そんな事を言われても中嶋にはどうしようもない。確かに、男の横にはこの間のように女がくっついている。耳を済ませると早くあの人の場所を教えてだの一体あの人は誰だったのかだの、そんな事の繰り返しだ。

 ただこの間と違うのは、どうやら彼女の姿が男に見えているらしいということだ。先ほどからチラチラと女を見ているようだし、 説明しながらも女のいっていることが鬱陶しいらしく、女の声を遮るようにどんどん男の声も大きくなる。しまいには「この女をどうにかしてくれ!」と関係ない事まで言ってくる。その後依頼内容なのかただの八つ当たりなのかわからない内容を延々聞かされ、ようやく中嶋は口を開いた。

 中嶋はニコリと笑顔を浮かべてはいるものの、その額にはしっかりと青筋が立っている。


「おっしゃっている意味がわかりませんね。お疲れなのでしょう、よろしければ良い精神科医を紹介しますよ?」


 そう言うと男が慌てて違うんですと言いはじめるが、中嶋はぐうの音も言わせない勢いで論破をして男を事務所から追い出した。もうこれ以上つきあっていられない。総弦がうっかり男の目に入り、この事務所にも立ち寄っていた事がわかれば非常に面倒な事になってしまう。

 というより、この馬鹿ップルというかただのアホ二匹に付き合ってられるかという思いが強い。要するに、自分の憎んでいた男に制裁を入れた総弦に惚れたということなのだろうか。女の生霊からは禍々しい雰囲気は消え、ピンクの花びらでも散ってそうなキュンキュンな空気だった。小杉は先日のチリチリ感から、ぞわぞわした妙な気配を感じて落ち着かない様子だった。

 年齢を考えろといってやりたいくらいだ。どう考えても親子ほどに離れているように思える。天井裏に隠れていた一華がにゅっと首だけ天井から出してきた。


『一応、女の人の性格もちゃんとめんどくさかったんだね』

「そうだな」

『せっかく総弦さんがなんとかしようとしてくれたのに良かったのか悪かったのか。そういえば、何で総弦さんって結婚詐欺にあんなに怒ってたんですか?』


 そう聞くと事務作業をしていた小杉がふきだし、中嶋もくくっと笑う。


「いやー、寺継ぐのが嫌で反抗しまくってた時、じいさんが事故で今晩峠でオヤジさんも癌で長くないとかで、泣きながら将来寺を継ぐって誓約書を書いたんだと。まあ当然そんなもんじいさんたちの噓だったわけだが」

『ぎゃっはははは! 反抗期でそれはイタイ!』


 総弦からすれば二人の身を案じて心から反省をし、将来を背負って立とうと思ったのにその仕打ち。殴り合いの喧嘩になったらしいのだが、祖父も父も異様に強く結局二対一でボコボコにされ負けた挙句、誓約書は弁護士に預かってもらっているので破棄もできないらしい。それ以来詐欺や詐欺まがい、人の誠意を踏みにじる人物は目の仇にするようになったそうだ。


「あそこはじいさんもオヤジさんも非行に走ってからの住職らしいからな。総弦は見事に同じ人生歩んでるんだよ。年の功もあるしケツの青いガキがあの二人に勝てるわけねえっての」


 くくく、と完全に悪い顔をして笑う中嶋を見て一華は少しだけ総弦に同情した。ああ、あの人なんだかんだで幽霊の自分よりも一番かわいそうなポジションなのだなあ、と。

 窓から外を見れば、まだ男が女の生霊と口論をしているようだ。しかし女の姿は普通の人には見えない。完全に大声でエア人間と会話をしているちょっとアレな人だった。通報されるのは時間の問題かもしれない。


 それを見て、ふと一華は気になった。


『あの人、何で突然生霊が見えるようになったんだろ?』

「……さあな。俺も生霊には詳しくないし、幽霊も生霊もマニュアルがあるわけじゃない。派生っていうもんが生まれやすいだろうから、よくわからん」

『そっか、そういうもんか。って、考えてみたら私もそうだった。何やっても成仏しないんだもんね』

「そういうことだ。考えてもしゃあない」


 そう言うと一華は興味をなくしたように小杉と世間話を始める。中嶋は自分のパソコンのメールを開き、佐藤にメールを送った。今回の件を簡単に、そして最後に一行。


〔生霊が見えなかった男が突然見えるようになった。そういう事ってあるのか〕


 送信ボタンを押し、請求書やレシートの処理を始める。正直返事は期待していない。あの男はこういう関連の話となると、あまり関わらないほうが良い事ははぐらかす。

 返事はすぐに来た。メールには何か添付をされている。


〔サト君へ お疲れ様でした。ところでこの人何カップだと思う?〕


 常夏を思わせる青い海、白く美しい砂浜をビキニ姿で歩くかなりの巨乳の女性。


「……」


 これははぐらかしているのか、単に巨乳の話題をふりたいだけなのか、正直まったくわからない。いやそれより何より。


「テメエは一体どこでなにしてるんだよ!」


 大声に反応して二人が振り返れば、思わずディスプレイに裏拳で突っ込みを入れてしまい、画面からバキっという嫌な音がして頭を抱える中嶋がそこにはいた。


「これ修理は経費で落ちるか?」

「天引きじゃないでしょうか」


・生霊・ END


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