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幽霊と探偵  作者: aqri
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生霊4 正しい頼み事の仕方

『まあいいじゃん、喧嘩売り買いする為にきてもらったわけじゃないんだし』


 その通りだが、一華の言葉に同意するのは気が進まないらしく無言だ。それを見た一華と小杉がやれやれといった様子で肩をすくめる。その様子を見ても気にせず、総弦は中嶋へと向き合った。


「で?」

「まずざっくり言うとな、今回の相手は生霊だ」

「じゃあな」


 生霊、という単語を聞いてそのまま踵を返す総弦に中嶋は「まあ待て」と声をかける。


「報酬見ないのか?」

「見るまでもなく断る。ブっ飛ばせば消える幽霊と違って生きてる奴相手はめんどくせえ」

「そう言うと思った。だからそれにふさわしい報酬を用意したんだよ」


 言いながらソファにおいてあった箱を取り出し、目の前に突き出す。すると箱の中からわずかにガサガサという音がし、総弦はわずかに目を見開いた。


「え、ちょっと待てまさか」


 中嶋が箱を開ければ、中に入っていたのは猫だった。


「可愛い~! え、どうしたんですかこの猫」


 箱を覗き込んだ小杉が声を弾ませる。一華も近くに寄ってきて目を輝かせた。


『あ、マンチカンだ』


 入っていた猫は甘えん坊でお馴染み、人気の高いマンチカンだった。まだ子猫で動きもたどたどしい。女子二人きゃーきゃー言っているのを尻目に、中嶋は箱の中に手を入れる。するとマンチカンは警戒することもなく手に擦り寄ってきた。どうやら箱に閉じ込められて心細かったようだ。


「こんな仕事しているとあちこちに知り合いが増えてな。丁度子猫が生まれてもらってくれる人を探してるっつー連絡貰ってたんだ。可愛いよなあ、甘えん坊な性格らしいぞ? 総弦君」


 その言葉に一華と小杉が総弦を見る。彼はじっと子猫を見つめ、ダラダラと汗を流していた。報酬と言い用意された猫なのだから、考えられるのは一つ。


「総弦さん猫好きなんですか」

『意外。どっちかって言うとそこらの猫蹴飛ばしてるイメージ』

「しねえよそんな事」


 先日怒鳴りあいの喧嘩をした時とはうってかわって真剣に返され、一華も思わず黙る。はっきりわかるのは、この人本当に猫が好きなんだなあということだ。その証拠に先ほどからずっと視線は猫に釘付けだったりする。


「いや、確かに猫は……いやでもな、生霊だろ? 簡単には」

「電話で言っただろ、断るのは自由だって。じゃあこの話はなかったことでいいな」

「待て、その猫どうするんだ」


 やや焦った様子で総弦が問えば、中嶋はにっこり笑ってマンチカンの首の後ろをつまみ上げる。先ほど優しく撫でていた手つきとは違い完全に猫掴みというか、ばっちいモノでもつまんでいるかのようなぶら下げ方だ。その様子に総弦はヒヤリとしたイヤな予感を感じた。


「捨てるに決まってるだろ」

「はあ!?」

「言い忘れてたけどな、俺猫嫌い」


 口元は笑っているが目つきは完全に据わっている。今すぐこの獣を放り出してしまいたいとでも言いそうな顔だ。ついでにやや殺気も感じる、気がする。おそらく本当に中嶋は猫が嫌いなのだろう、手の中でにゃーにゃー鳴き始めている(というか泣いてる)猫には目もくれていない。


「おいやめろ、とりあえず下ろしてやれよ可哀想だろ!」

「ぜ~んぜん可哀想に思わないから断る」

「ふざけんな!」


 それを見ている一華と小杉はちらりとアイコンタクトを送る。そういえばこの間動物霊に塩を投げつけていた時もえらい勢いだったなあ、と一華は思う。総弦を言いくるめるための手段なのだろうが、このまま彼が協力しなければ本当に猫を捨てに行くに違いない。一応様子を見ようかと黙っていると総弦が小杉を振り返った。


「小杉さん! アンタ飼えないのか!」

「あ、ごめんなさい。アパートだからペット禁止なので」


 困ったように答える小杉は、しかしあまり深刻にはとらえていない様子であっけらかんと言い放つ。その言葉に総弦は頭を抱えた。その間にも中嶋はネットで何かを検索し始める。ついでに猫はまだ鳴いている。


「さて、保健所の電話番号は」


 トドメとなったその言葉に、総弦はテーブルを力の限りに殴りつける。


「わかったよ、何でも言え畜生! あと早くおろしてやれクソがあ!」

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