生霊3 やさぐれ僧侶
ふと、後ろにいた一華が『あ』と声を発した。
『総弦さんに相談してみたら?』
「あいつか? まあ確かに専門家だけどなあ。絶対やなこったとか言って協力しないだろ」
一華の提案に中嶋は難色を示す。実は一華に言われる前にチラリと考えたのだが速攻却下したのだ。
総弦とは寺の跡継ぎで非常に強い霊感を持っている人物だ。総弦の父も祖父も「法力」という霊を祓う力はあっても「霊感」はそれほどない。霊感も法力も兼ね備えた総弦は非常に優秀な僧……なのだが、本人の性格にやや難ありでこういったことには非協力的だ。生まれた頃から霊力があったからこそ霊が大嫌いで、霊が見える人間にもあまりいい態度をしない。
本人曰く「面倒なことに巻き込むから」。巻き込むも何もそれが本職なのだから何も間違った事をしていないはずなのだが、そのあたりには事情がある。
「一華、お前あいつに会うの嫌じゃないのか。アレの幽霊嫌いは初対面の時よく味わっただろ」
『ああ~、私を除霊しようと頑張ってましたなあ』
一華に殺された時の記憶がなく、成仏してもらおうと総弦を呼んだのだがそこからいろいろあった。何をどう頑張っても一華は成仏しなかったのだ。ブチ切れた総弦が浄化から除霊に切り替え、それでも一華に変化はなく。
『ド下手クソ! ぜんぜんダメじゃん! 痛くもかゆくもないんですけどどうなってるの!?』
「黙ってろ悪霊モドキが! むしろテメエがおかしいんだよ! 何でとっととあの世にいかねえんだ! テメエ人間じゃねえんじゃねえのかクソッタレ!」
『はあ!? 何でそんな結論になるのか意味わかんない! 自分の実力のなさを人のせいにするのやめてくれない!? 仮にも大人が!』
「るっせえな黙ってろっつってんだろ! 除霊には集中力がいるんだよバケモノがぁ! 除霊じゃなくそこらの石にでも封印にされてえのかクソガキ!」
このような怒鳴りあいが響き、やってられるかと捨て台詞を吐いて総弦は怒って帰ってしまったのだった。
一華の怒りもしばらく収まらなかったが、その後総弦の父から電話があり。
「息子が不貞寝してるんだけど何かあった?」
受話器から聞こえたその言葉に一華が吹きだし一気に機嫌が直ったのだった。なんだかんだいって除霊できないの気にしてんじゃんと中嶋がげらげら笑っていたら、事情を察し笑い転げる総弦の父と奥のほうから怒鳴り散らす総弦の声が聞こえ事務所全体が爆笑の渦になったのだった。
『まあ口は悪いし性格も悪いけど、可愛いところがあるのがわかったからいいよ。それに私の存在が本当に気に入らないって言うなら、外にでも行ってるし』
「一華ちゃんのそういうところが凄く大人だよねえ。総弦さんにも見習ってほしいところです」
しみじみと呟く小杉に中嶋が小さく笑い、それじゃあと総弦に電話をする。しばらく応対をしていたが、やはり突っぱねられたらしく中嶋が「まあまあ」とニヤニヤ笑いながら宥める。
「もちろんタダでとは言わない。まあお前が喜びそうな報酬は用意しておくから、一回事務所に顔出せよ。気に入らなきゃ断ってもいいぜ? ああ、はいはい。じゃあお待ちしてま~す」
電話を切ると満面の笑みで立ち上がる。その様子からは絶対協力を取り付けられる自信があるようだ。
「ちょっと出かけてくる」
一時間後、事務所に総弦がやってきた。頭は剃っておらず普通の髪型で茶髪、服装もTシャツにデニムと至って普通だ。目つきは鋭くヤンチャなことしてましたと言われても納得できる。年齢も二十と若いこともあり、誰もこの人物が八十九代目の住職(予定)だとは思わないだろう。
挨拶もなしにチラリと一華を見ると眉間に皺を寄せて舌打ちをする。
「なんだ、まだ彷徨ってんのかよテメエ」
『おかげさまで~、除霊できなかったお坊さん』
ニコニコ笑って手を振れば総弦の額には青筋が浮かぶが、あれだけ盛大に格好悪いやりとりをした後では何を言っても効果がないだろう。実際一華は悪態つかれても気にした様子が無い。