悪魔召喚1 幽霊が探偵事務所勤務してます
世の中の探偵という職務はとても大変である。
企業からの依頼もあるが現代において個人からの依頼が非常に多い。浮気調査、身辺調査、連絡の取れない人の所在地調査。特に人間関係の調査が多いので、人手などいくつあっても足りない。
夫婦や恋人の浮気調査はまだいい。最近は依頼人の方が勘違いしてるイタイ奴かストーカーだったりもする。それも仕事なので引き受けるのだが。
尾行、張り込みはずっとターゲットにくっついていなければいけないのでかなりのハードワークだ。朝も夜も関係ない、体力勝負なので若いアルバイトに任せる事もある。睡眠、食事がとても不規則で夏と冬がとても辛い。
そんな中、佐藤探偵事務所には非常に優秀な助手がいた。担当業務は主に外回り、ターゲットの尾行や張り込みなど、相手に直接くっついて物事を見聞き観察するといったものだった。
どんなに不規則でもハードでも決して不平不満は言わない。何せ睡眠、食事が必要なく相手に気づかれる事が絶対にない。
彼女、遠藤一華はすでに死亡しており、幽霊なのだ。
『というわけで、今回の浮気調査は黒。出張と称して愛人の家にしけこみあんなこと、こんなことをドぎつい感じでプレイしていました。仕事は合間にパソコンでちょちょいっと仕上げて会社にも完璧に偽装してます』
すらすらと言うと、一応一華の上司にあたる中嶋がそれを調査報告に盛り込む。
「ちょちょいっと仕上げるだけの能力があるからこそそういう事できるんだろうなー、羨ましい。どうもお疲れさん」
「サトさん、もう一華ちゃんに浮気現場見てもらうのやめませんか。女子高生に見せるものじゃないですって」
平然としている一華、中嶋……名前が聡なのでサトさんと呼ばれているが、彼に訴えるのは事務作業担当の小杉だ。二十代前半の女性なので、一華に同情しているらしい。
『えー、あんなの無修正エロサイトでいくらでも見れますよ無料で。生きてた頃友達と夜中に見て大爆笑でしたよ。友達の家に泊まったらお決まりのイベントどしたけど」
「最近の若い子って」
がっくりとうな垂れる小杉を横目に、中嶋は淡々と調査報告を仕上げていく。
「小杉、お前も十分若い。そういう発言多くなると一気に老け込むぞ。あと一華、そのサイト後で教えろ」
「『死ねよ』」
一華と小杉の声が見事にハモった。
遠藤一華がこの探偵事務所に現れた、文字通りある日突然「出現」したのは三ヶ月前の事だった。事務所内には神棚があり、毎朝朝礼でこれを拝むのがルールとなっている。
所長の佐藤曰く、「法に触れるスレスレのことしてるから神様には媚を売っておこう」ということらしい。スレスレどころか普通に触れる事をしているので意味ないだろ、というのが中嶋聡の言い分だが。
そんなある日、この神棚の近くに一華が現れたのだ。重力など関係ないので、天井に寝転ぶというトリックアートのような格好で眠っていた。声をかけても反応なし、現れて一ヶ月ほどは起きず、ずっと眠ったままだった。
そうして目覚めたのが二ヶ月前。何故自分が死んだのか、何故ここに現れたのか本人はまったくわからないようだった。
この探偵事務所には非常勤やバイトも含めると二十人ほど在籍しているが、幽霊が見えるのは所長の佐藤、浮気調査など尾行張り込み専門の中嶋聡、事務作業担当の小杉綾乃の三人だけだ。三人で相談して一華をこのままここに置く事にした。
理由は単純、人手が欲しかったからだ。ネットの普及とコミュニケーションの悪さが酷くなっていく昨今、どうでもいいと思えるような人間関係調査が毎年増加の一途だ。浮気だけでなく同僚からどう思われているか、取引先は本当に契約してくれそうかなども含めると業務はパンパンだ。姿が見えず絶対ばれることのない一華は非常にありがたい存在だったのだ。
加えて一華は何故か成仏することができなかった。知り合いの坊主に経をあげられても、悪霊払いの除霊をしても、除霊は途中で一華がキレて中止となったのだが、一華はこの世にとどまり続けている。
行くところもない、他にやる事もないということですんなりOKしてくれたのも話がとんとん拍子で進んだ要因といえる。