表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/170

02-03 馬車の中

「…ああ、盗賊の残党が近くにいるかもしれないと思うと、危なっかしくてありません。ニール様。目的地のジェスタイデル町はもうすぐなのでしょうか」

マーサが心配そうにニールに尋ねる。隣にいたジャコビンは怒鳴り疲れたのか、肩で息をしながら、がっかりと項垂れていた。

「安心しな。もうすぐで着くはずさ。もう一時間はしないと思うな」

「…あの、ニール…さん?」ここでケルシーが会話に割り込んできた。今までおとなしくしていた子が喋ったことに対して、ニールは少し驚く。

「ん?どうした、嬢ちゃん」

「この先のジェスタイデル町ですが、ニールさんの故郷なのですよね?一体どんな場所なのでしょうか」

もうすぐ着くのだから、別に聞く必要がない質問かもしれないが、ケルシーはとにかく喋りたくて、ニールに問いかけてみた。

「ん。ああ…。別にそんな大したところじゃないさ。ま、王都程臭くはないことは確かだな」と彼は笑った。

「あ…あの。劇場とかありますか」ここでグレイスが口をはさんできた。彼女はほとんどこういう場面では無口であるのが通常なのだが、割って入ってきたことにケルシーは驚いた。

ニールは別の意味で驚いていた。

「劇場?なんだって」突拍子もない質問に彼は目を点にした。

「あ…いえ…、なんでもないです」とグレイスは消え入るような声で話をなかったことにしようとした。

「ああ、気になさらないでください、ニール様」

ニールが目を丸くしていると、今度はジャコビンが話していた。

「彼女はどうも世間知らずなところがあるので。常識的に考えて、ジェスタイデル町にそんなものはあるわけなかろうに」と嫌味たらたらと、ため息交じりに答える。

グレイスは顔を真っ赤にして俯き、彼女の手を握っていたケルシーはジャコビンを睨んだ。

「何か、シスターケルシー」

ジャコビンはその視線に対し真っ向から睨み返した。

ケルシーは何か言いたげそうだったが、しばらくすると下唇を噛み、

「いいえ。マザージャコビン」と静かに返事した。


グレイスが意気消沈していると、ニールは気の毒と思ったのか、続けて彼女に話しかけてみることにした。

「嬢ちゃん。演劇が好きなのか」

「…え。…あ、はい!とても好きです」

まさか会話を拾ってくれると思いもよらなくて、彼女は思わず嬉しそうに返事した。

「ひょっとしてその大事そうに抱えている本も、その関係だったりするか」

ニールはグレイスが胸に当てていた本を指した。

「はい!これは『谷底の悪鬼』といって、私の大好きな演劇の一つです!」

「…ほう。俺はそういうものに疎くてね。どういうものか俺に話してみてくれるか?」

ニールは軽い気持ちで聞いてみた。そうすれば、この悲しそうな彼女を明るくしてみせることができるのではないかと思ったのだ。性格を見るからにして、断られるかもしれないかと思ったが、そこは優しく会話をリードするつもりでもいた。

ニールが乗り気でグレイスと話しかけていることに、ジャコビンは眉をひそめていたが、口は出さなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ