02-01 馬車の中
馬車の車輪はカタカタと音を鳴らす。荷台の中で、布でできた壁に寄りかかりながら、グレイスは小刻みに揺れた。
空の方を見上げると、星が散らばった宝石がいっぱい輝いているのが見えた。木の枝の影から半月が見え隠れしていた。とても静かで、穏やかであり、先ほどの喧噪がまるで嘘だったかのようだ。
真正面の方を見ると、御者さんの後ろ姿が見えた。彼は手綱を握ったまま、ゆらゆらと揺られながらも、落ち着いた姿勢を保っていた。その奥の方には、もう一台の馬車の後方が見える。ここのと同様、荷台が白い布でテントのように張られていたが、中に吊るされているランプの灯りで、中にいる人の影が見える。狩人のダグラスさんが中にいるみたいで、彼の周りにシスター達が囲って楽しそうに話しかけているのが見える。
そんな様子をぼんやりと見ていると、御者さんの背中が緑色の光が当たっているのに気づいた。グレイスは振り返ると、荷台の奥の方でマーサが護衛のニールさんの腕を診てもらっているのが見える。彼女は患部に手をかざしていて、回復魔術をかけていた。手からは淡い薄緑色の光が灯し、荷台をその色で染め上げた。
「すごいな。本当にそんなので本当に手当できるのだな」
マーサが傷口の上に手をがざしていると、傷口がゆっくりと塞がっていく。グレイスは今まで何度かマーサのこの芸当を見てきたけど、いまだにこの奇跡は信じがたいものだった。グレイスの隣に座っていた友達のケルシーも口を半開きでその様子を見ていた。
「はい。これでもう大丈夫です」
二分経たずと回復の施術は終了した。
「ありがとな、姉ちゃん」
ニールは腕のシャツをめくり戻して、彼女にニヤリと笑う。
しばらくそのまま二人は沈黙のまま隣同士で座っていた。マーサは目を合わせないようにして顔を俯かせて、ニールは彼女の顔をまじまじと見つめていた。
「それでは」
気まずく感じたのか、マーサはニールの隣を離れ、ケルシーの真向かいに移動しようとしたが、
「ちょっと待てよ、マーサだっけか」
ニールは腕を掴んで制した。
「あんた、本当に修道女なんかでいいのか。いい女が台無しじゃないか」
マーサは特に驚く素振りもなく、軽く愛想笑いをしながらも丁重にそのお誘いを断った。
「はい、神様に貞潔の誓願をされていますので、私はこういったことは…」
それはもう何度聞いた常套句だろうか。シスターであるのにも関わらず、マーサはあちこちで男達からアプローチを持ちかけられているのを目の当たりにしてきた。
確かにマーサは修道女にはしておくのは勿体ないと感じるほどの美人だ。それに加え、スタイルもよくて胸の大きさにも目が付く。
四年前、グレイスがマーサに初めて出会ったとき、まず目が行ったのはその大きな胸だった。
修道服で隠そうとしているものの、豊満な肉体が浮き彫りに出て、むしろ逆に妖艶に映えていた。この人はシスターには向いているのだろうか、と失礼な初印象を持っていたのが今でも覚えている。