10-03 長い眠りからの目覚め
セオドルスはそんな母の泣き声と父の宥めを聞き流しながら、地下シェルターの隅の方へと歩いていく。通りすがりに部屋の中央に置かれている大きな壺の横を通る。それは、ほのかに光っていて、辺りを少し明るくさせていた。この壺は、マクファデンがネクロマンシーを行使するために必要な物なのだろうか。後で彼にそのことについて話しかけてみようと思った。
しかし、今のセオドルスの関心はそこになかった。部屋の隅にあった一つの墓にあったのだ。
彼は手前までたどり着き、埋墓を見下ろした。
簡単なつくりのした墓だった。部屋の隅にある石の床を取り除き、その下にある土の下に遺体を埋葬した。ここには、セオドルスが一時想いを抱いていた人が埋まっている。
土のところに建てられた小さな枝。横に並べられていた小石。一年経っていても、何も変わりはないようだった。
セオドルスが何もしゃべらずにその墓を見下ろしていると、ユリーカが話しかけてきた。
「どうした、セオ。そこに何かあるのか」
「ユリーカ兄さん…。いや…なんでも。…これ、覚えていないですか?」
「そこに何かあったっけ?」とユリーカはしかめ面で答えた。本当に分かっていない様子だった。
「ああ、そうか。ミンを埋めた場所か、ここ。ハハ、すっかり忘れていたよ。まったく、お前も物好きなものだな。こんなものを作りたかったなんて」
とユリーカは笑った。
セオドルスは笑わなかった。少し儚げな表情で、想い人の墓を見つめた。ユリーカはセオの肩に手を置いた。
「まあ。終わったことはしょうがないだろう。しかし、セオ。勘違いはしてくれるなよ。彼女を殺したのは俺じゃないからな?」と彼は微笑み、そして部屋の中央へと戻っていった。
セオドルスはユリーカの後は追わなかった。しばらく無表情で「ミン」の墓を見下ろしていた。その間、彼はこうして蘇ったことについて、そして、プレムタック家として今後も貫いていくことについて考えていた。
家族のみんなは自分達の栄華のために、他者を犠牲とするのが平気でいる。両親もユリーカも、屋敷に罠を張る計画に関して、良心の呵責を微塵にも感じない。セオドルスはそんな家族と一緒にやっていけるのかどうか、不安になっていた。
実はというと、一家揃って自決を図った際、セオドルスはこの世を去ることに少し安堵していたのだ。悪事をしている家族の一員として生きていくこともよりも、命を落としてしまった方がいいとさえ、考えてしまっていた。しかし、思いがけないことに蘇ってしまったのだ。確かに、マクファデンはネクロマンシーのことを話していたのだが、当時はそこまでは深く意識してはいなかった。
セオドルスは墓を見つめたまま、ため息をついた。家族と金輪際共存していくのかと思うと、もやもやしてくる。幸いにも、家族は彼を快く迎え入れてくれている。両親は好きだし、ユリーカのことは少し怖いけれども、幽霊になった以上、彼の恐怖魔術を間違って受けることはもうないので、その心配はない。家族を捨ててしまったら、他にあたる味方もいなければ、居場所も見つからない。もう彼にはここしか居場所が残されていない。
そんな絶望的な状況に置かれて、彼は今後どうすればいいのか、心から悩んでいた。一体どうして、生き返ってしまったのか。そのことを少し悔いていた。
そうして呆然としていると、部屋の中央が少し騒がしくなっているのを気づく。振り向くと、執事のフランシスが帰ってきていて、みんなが彼の周りに集まっていた。彼もまた皆と同様、緑色にほのかに光っていて、半透明になっていた。
「どうだ、フランシス。上の状況は」と、ジョゼが話しかけた。
「はっ。旦那様。特に危険はないと見てよろしいかと。上がっても問題ないと思います」
フランシスはいつもの落ちついた口調で返答した。
セオドルスもみんなの所へと戻っていた。幽霊になってもフランシスは変わりないように見えた。背が高く、常に姿勢がよく、とても礼儀が正しい。正装を着こなしていて、父と同じくらいの年齢ではあるが、少し禿げてきているようだ。もっとも、死んだ後はそれ以上髪を失う心配はなさそうなのだが。




