01-03 護衛の奮闘
「もう大丈夫だよ、グレイス!狼はいないよ!」
よちよちとまた友達のケルシーが寄ってきた。彼女の顔にも血が飛び散っていて、興奮で鼻孔を収縮させていた。
「そう…。よかったわ・・」
グレイスは生返事するしか体力は残っていなかった。どうしてみんなはこうも元気があるのかと、不思議でしょうがなかった。
その後、グレイスは少し荷台の上で気絶していたのだろうか。気が付くと、外の方で何かが慌ただしく動いているのが聞こえた。馬車はまだ発車しておらず、荷台からシスターの仲間達の姿がいなくなっていた。一体どうなったのだろう、彼女は思った。
気持ちを少し落ち着かせることができたグレイスは、勇気を振り絞って荷台から顔を出した。太陽がまた目に入り、目を細めながら外の状況を窺う。
日が先ほどの場所から大して変わっていないところを見ると、小一時間のみ気絶していたことが分かる。夕日は山の向こう側の方に半分隠れてしまっていた。周りにある木々は長い影を出していて、それは馬車の方までへと伸びていた。
「これ、どこ持っていけばいいの」
「こっち、こっち。こっちに乗っけてくれればいいって」
シスター達の掛け声が聞こえる。どうやら護衛の男達が戦後処理に努めていて、シスター達が手伝っていたようだ。狼の死骸を何体か持って帰ろうとしている様子だった。
手伝いをするために縄を用意してあげたり、死骸を荷台の中へと運ぶシスターもいた。また、お手伝いそっちのけで、護衛の男達に話しかけるのを夢中になっている子もいれば、狼の死骸にだけは近づきたくないと、手伝いを拒んで仲間同士で話し合っている子もいた。
グレイスは誰もいなかった荷台から出て地面に降り立った。長時間座りっぱなしだったので、足は少し麻痺していて、立つのに少し違和感を覚えた。彼女はそのままボーっと周りの様子を眺めた。近くに狼の死骸を運ぶシスター仲間の二人を見かける。手伝おうかなと思い、声をかけようとするが、ためらってしまう。グレイスは仲間達の中で気軽に声をかけることができる人は少ない。友達のケルシーと、マーサという面倒見のいい監督者くらいだけであった。彼女がシスター仲間達とうまくやれていないには、ちょっとした訳があった。
そんなグレイスが本を抱えながら、何もせずに突っ立っていると、マザージャコビンの怒鳴り声が聞こえてきた。
「ニール様!シャツ!」
「おい、ちょっと今は勘弁してくれ、『母ちゃん』。こっちは今怪我しているんだからさ。まずはそっちを見てやってくれないか」
マザージャコビンはニールに先ほど脱いだシャツを押し付けていた。よく見ると、彼の左の二の腕から血が垂れていた。どうやら最後の狼の最後っ屁を喰らっていたようだ。
「なあ、あんたの仲間に回復魔術ができる人が聞いていたのだが」
「ああ、もう!呼びますから、それを早く着なさい!…マーサ!」
ジャコビンが叫ぶと、ちょうど狼の死骸を運び終えた、背の高めのシスターが駆け寄ってきた。ブロンドのロングヘアーをに顔立ちが整っている女性で、グレイスより一回り歳の上の先輩だ。彼女は監督者であるジャコビンの補助係にあたる。






