06-05 屋敷周りの見張り
ケルシーは右側面から屋敷を見上げた。それは静かに彼女のことを見下ろすかのように屹立していて、彼女の心境に影をもたらした。
窓一つ一つが虚ろな目のように見えて、中から助けを訴えが聞こえてくるような錯覚を覚えた。
こんな不気味なところで一日中、見張りをしなくてはならないと思ってくると、嫌気がさしてくるのは確かだ。警備の仕事の受け手が見つからないのも道理だと彼女は思った。
突然、ケルシーは上ばっかりに気を取られていたせいか、足元で何かにつまずいた。
彼女は一階の土台となる部分、段差ともなっている腐敗しかけている木造の犬走りに手をつき、転ぶことを防いだ。
クラークはその様子に気づき、心配そうに駆け寄ってきて彼女の手を引くようにして立たせた。
「なるべく家の扉などといったには触らないように」とクラークは注意をした。「どんな魔術が施されているか分からないのだから」
ケルシーは小さく礼を述べて、手が地に着いた時の際の汚れをはたくようにして落とした。
再び二人が歩き始め、ケルシーはまた話を切り出した。暗い雰囲気をなくしたい気持ちもあり、また、沈黙で気まずい思いをするのが彼女は控えたかった。
「ブラウン…でしたっけ。プレムタックに対して、結界で封じ込めたという人。…その人はあの後どうなったのですか。」
「戦争が起きるようになって、彼の家族ごと粛清されたと聞いているよ。多くの貴族が廃れてしまって、この屋敷問題の引継ぎがうまくできていない。結果、ギルドの解決されない依頼として保存されたものの、そのまま放置されているわけなんだ。」
クラークは触らないように気をつけながら、窓から屋敷の中を覗き込む。
「彼が亡くなった後も、結界は最低五十年は続くようにできていた。ギルドもそれでよしとして、この事態に目を今までつぶっていたわけで、解けた今ツケが来た。主にこの依頼の担当している僕に対して」
彼は苦笑して窓から目を離し、犬走りの上を歩くようにして屋敷の正面に出ようとした。ケルシーは家から少し距離を取るようにして、クラークの後を追った。
屋敷の正面部に戻ると、ケルシーは家から離れることにした。クラークは「あまり遠くに行かないように」と呼びかけ、彼女は「はい」と明るく返事した。
丘の上には崖になっている部分があり、彼女はそこから下を傍観することにした。
ジェスタイデル町の丘のふもとの方にあるのが見えた。
あんな活気があって優しい雰囲気を持つあの町が、こんな気味が悪くておぞましい館が隣合わせなのが不思議に思えてきた。
綺麗なリンゴにも醜いミミズが入っているという諺が頭によぎると、ケルシーは少し悲しげに微笑んだ。
風がまた吹き、彼女は優しく包み込む。甘酸っぱい香りがする暖かい風だった。
こんな新鮮な空気、いつぶりだろうか。ゆっくりと肺におさまるようにと吸い込んだ。
しばらくの間、後ろに佇む屋敷を背にして、風に身を任せてみた。
彼女はこれから待っているだろう新鮮な毎日、友達のグレイス、そしてクラークさんが用意してくれているお昼ご飯のことを想い浮かべながら、両手を後ろで組みつつ下の情景をただただ眺めていた。
突然、後ろの方から男の怒鳴り声が聞こえた。
ケルシーは白中夢から目を覚めるようにして振り返り、少し離れていたクラークと目を合わせた。彼も聞こえたようで、屋敷の方を見た。
「エイドリアンさんか?一体何が…」
クラークは先程来た道を引き返すようにして駆けていき、ケルシーもすぐその後を追った。




