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04-01 霊と交信できる少女

フィスビは酒場の二階から下の喧噪を眺めていた。どんちゃん騒ぎをしている人の海が目下に広がっていた。酒を早く用意してこいという怒鳴り声、相手を挑発するような馬鹿にした声、噯気が混じった下品な笑い声が、入り混じって二階へまでと沸き上がっていた。彼女は侮蔑の混じった視線で、そんな掃き溜めを見下ろしていた。

フィスビは人込みが嫌いだった。一階に降りて、あの騒がしさの中に紛れるのは御免だ。だが、こうして誰も届かない上から、神の視点から俯瞰するのは悪い気はしない。錯覚であると分かっているが、自分は他より力があるような感覚になれる。

「メファリア。ちょっと『あれ』をやってみたいのだけれど。付き合ってくれる?」

フィスビは隣の方に顔を向け、話しかける。しかし、そこには何もない空間しかなかった。傍から見れば、彼女は独りごとをしている、もしくは空想の人に話しかけていると思われるだろう。だが、実際にそこに「人」がいて、今見えなくても、フィスビは「いる」ということが分かっていた。

返事は得られなかった。メファリアが何を言っているのか分からない。だけど、自分に対して何か伝えようとしているのは分かる。夜になり、もう疲れているから、元気がある時の日中よりも意思疎通が取りづらくなっていた。霊力が下がっているから、メファリアのことを見えるのも、聞こえるのが難しくなっていた。

「私、やってみるから」とフィスビはニヤリと笑う。「ほら。あの間抜けそうな男。あいつになら、やってみてもいいんじゃない?」と、下に座っていた一人の男性に指さして、いたずらっ子のように彼女は微笑む。

再度語り掛けても、やはり返事は聞こえない。だけど…いや…。確かに、メファリアの気持ちが心に伝わってくるのを感じる。フィスビは目をつぶり、集中を研ぎ覚ます。しばらく立ったまま瞑想していると、わずかだけど、メファリアが何を伝えてきたのが分かる。

すると、フィスビはため息をついた。

「はあ…分かったわよ」

どうやら、メファリアは乗り気じゃないらしい。彼女の「魔術」を使ってみようと思ったけれど、却下されてしまった。

「…それじゃあ、もうここには用はないわね。メファリア、部屋に帰りましょう」

フィスビはそう言い、二階の手すりから手を放し、東側の連絡通路から酒場を去ろうとした。横から二階のお客からジロジロと見られているのが分かるが、まったく気にしない。私が頭のおかしい子とかでも思っているだろうけれど、勝手にそう思えばいい。フィスビはツンと澄ました顔で歩いていった。しかし、彼女は通路に入る手前で止まってしまう。メファリアが一緒に付いてきてくれていないことに気づいた。フィスビは先程いた場所に振り返り、目を凝らした。

数秒、彼女は立ったまま集中してみたけれど…、やっぱりそうだ…。メファリアはその場から動いていなかった。彼女はまだ酒場を見下ろしているらしい。

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