03・ありがちな転生
何とか早めに書けました。楽しんでくれたら嬉しいです。
「というわけで、ようこそ死後の世界へ!」
目が覚めると僕は白い天井の部屋にいた。あれ、これ助かったんじゃない? とか思ったんだけど、どうやら死後の世界らしい。あれだけ火に焙られたのに服も身体も奇麗だし、目もしっかり見える。
ああ、本当に死んじゃったのかと残念には思うけど、皆を助けることが出来た達成感からなのか不思議と後悔とかは感じなかった。
「あまり落ち込んでいないのですね?」
見上げるとそこには、高級アンティークっぽい事務机で書類にぺったんぺったんと判子を押している幼女がいた。
事務机は馬鹿でかくて、書類は今にも崩れそうなほど積まれているのに、どこからかひらひらひらひらと飛んで来ては更に積まれていく。
「……誰?」
ぺったんぺったんと判子を押した書類を、机の後ろにある窓から外に放り投げる幼女。書類はまるで生きているかのように窓の外へ、暗闇の中へと羽ばたいて消えていく。
「私ですか? 神様ですよ」
ぺったんぺったん。何でもないことのようにそう言って事務仕事を続けるお下げ髪の幼女(神)。
はいそうですかと信じることも出来ないが、この不思議空間を見ていると何となくそうなのかと信じてしまう気持ちになる。
辺りを見回すと、この部屋がとんでもなくだだっ広いことも分かった。
天井はすぐ近くにあるのに、目に見える壁は幼女(神)の後ろにある壁しかない。それ以外はどこまでも続く天井と床だけ。
その壁にぽっかりと暗闇に続く窓があり、今も判子を押された書類が飛び去って行く……。
※※※※※
「さて、少しお話しをしましょうか」
いつの間にか僕の隣に来ていた幼女(神)が言った。驚いてさっきまで幼女(神)がいたはずの事務机を見ると、あれだけあった書類がいつの間にか無くなっており、そしてまたひらひらと少しずつ溜まっていくのが見えた。
「私のお仕事が気になります? 私は死と転生を司る女神エネカ。どこかで亡くなった人たちの魂を、次の生へと繋いでいくお手伝いをしています。普段は御使いの人が作った書類に判子を押すだけですけれど、タクトさんはとっても良いことをして亡くなったので、転生ボーナスを付けちゃおうと思ってここに呼ばせて頂きました」
ニコニコとそんなとんでもないことを言い出すエネカ。えっ、これって噂に聞く異世界転生定番のチートスキル貰えるとかいうヤツ?!
「そうですよ、タクトさんが望むスキルや能力を特別に3つ、じゃなかった4つ付けてあげます」
「そんなに!? って、僕の考えてることが解るの?」
「それは、神様ですから」
えへへと笑うエネカに、僕は漸く彼女が神様なんだと実感できた。なんか光ってるしね。
「でも、そんなに大それた能力は付けられないのですよ。世界のバランスが崩れてしまいますので」「例えば?」
「空から隕石を落としたりとか、指先一つで誰でも倒せたりとか、そういう無茶苦茶なものです。あとは、モンスターを倒すと人の何十倍も成長するとかも無しです。あくまで誰かが持っているかもしれない範囲内の能力を4つ、プレゼントします」
思いのほか厳しいな……。初手で絶対死なないとか成長百倍とか考えてたわ。現実って厳しい。というか、いまモンスターとか言ってたけど、やっぱり日本に転生するのは出来ないのかな。
「それは、ごめんなさいです。日本は治安が良いとかで人気があって、転生当選倍率がとんでもなく低いのです。ソ●●アとか●国とかなら大丈夫だと思うですがいかがします?」
「うーん、下手なところに転生しても大人になるまで無事な気がしないし、なら異世界でまともな家庭に生まれたほうがいいかなー」
「あ、それなら大丈夫ですよ? タクトさんはそのままの姿で転生しますのでばっちりです。お金と国籍だけは現地調達して下さいです」
ばっちりじゃねーよ! 一番大事だよお金と国籍! というか地球に転生したらその2つ持ってない時点でどこの国でもアウトだよ。ってかこの子、素で人の心を読むの止めて欲しいんだけど。
「もう、我儘ですね。それなら転生する世界はこちらで決めますので、スキルをこの中から選んで下さい」
そういってファーストフード店のメニューのような紙を渡してくるエネカ。えっ、選べるスキルってこんなに少ないの?
「修行すれば誰でも覚えられるスキルや、持っているスキルを成長させると得られる発展スキルは抜いてあるのです。この世に生を受けた時にだけ得られる【ギフト】と呼ばれるスキルだと、このリストに載ってるくらいしか無いのです。あ、お勧めはこの『言語理解・会話』スキルですよ!」
そういってエネカが指差す所を見ると、確かに『言語理解・会話』スキルに大きく「おススメ!」と書いてある。その能力はというと“その世界の言葉を一瞬で理解して会話できるようになる”――って、
「これって普通、誰でも最初に貰えるスキルじゃないの!?」
パチクリと目を瞬くエネカ。えっ、僕そんなに変なこと言った?
「こんな便利なスキル、誰にでもあげるわけないじゃないですかー」
「やですよー」とケラケラと笑いながら僕の肩を叩くエネカ。さっきちょっと神様っぽいとか思ったけど、駄女神だわこれ。
すごく心配になってリストを見ると、案の定絶対必要だろうスキルが他にもあった。
「武器特性スキルとか、モンスターいる世界に行くのに持ってないと話にならないじゃん」
「そうでもないですよ? 農民とか商人になるのなら要りませんし、それこそモンスターのいる辺境に住みでもしなければ、戦争に巻き込まれない限り大丈夫です」
うん、絶対必要になるな、これ。普通に戦争ある世界っぽいし。
スキル『武器特性』の能力は“選んだ武器の取り扱いが上手くなる”。武器は後で選べるみたいだし、行った世界で手に入り易い物でないと意味がないから取り合えず保留で。
というか、もうスキル枠2つ使っちゃったんだけど、なんかぜんぜんお得感が無い……。
「あとは何かおススメなのない?」
「タクトさん、何か私の扱いがぞんざいになってません? 後はそうですね……これなんてどうです?」
そういってエネカが指差したのは――『成長』というスキル。なかなか良さげな感じだがその能力はというと、“身長が3mまで成長する”。
「いらねーよ! なんで身長限定なんだよ!」
「でもでも、背が高いとその分身体も大きくなるですから力も強くなりますよ?」
「着る服が無いし、そもそも武器が特注になるから金掛かるだけだろ」
ハッとした顔になるエネカ。うん駄目だ、この子使えない。自分で探そう。
リストを端から順に見ていくと、お勧めマークの無いヤツは大抵問題があることが解った。異性にモテるってスキルはとても惹かれたが、僕はハーレムはちょっと違う派なので諦めた。めっちゃ迷ったのはここだけの秘密だ。
3つ目は無難に『魔力特性』を選んだ。その能力は“生まれつき魔力を持ち魔法を使うことが出来る”。うん、とても無難だ。
そして最後のひとつ――
「うーん」
僕は悩んで悩んで選べないでいた。どれもこれも生き残るのに必要そうで、あと一つがどうやっても決め切れない。
ちなみにエネカは判子を押す仕事に戻っている。
「タクトさーん、そろそろ決めてくださいよー」
ぺったんぺったんしながらエネカが呆れ顔で僕にそう言った。まあ、体感だけど3時間くらい迷ってるからね。でも、次の人生掛かってるからもう少しだけ待ってほしい。
――そして僕は、取り返しのつかないミスを犯してしまう。
今になって思う。あの時なんで、どれでもいいから早く選ばなかったのかと。
僕は、いつの間にかリストの端っこに現れた、お勧めマークの無い『エネカ特注』というスキルを見つけてしまったのだ。
「あれ? さっきまで無かったと思うんだけど……エネカ、この『エネカ特注』ってスキルは何だ? 能力の説明が無いんだけど」
「あ、それはですね、私がタクトさんの深層心理をちょちょいと覗いて、タクトさんの真なる望みをスキルにしちゃう特注スキルなんです。何が出るかは作ってみないと分からないので、能力も分からないのですよ」
何それ怖い。経験上ぜったい良いの出そうにないし、やっぱりリストから選ぶのが無難かな。でも、相性ばっちりで生涯を共にする人とか出来るスキルだったらそれはそれで欲しいなぁ。
「その願い、女神エネカが聞き届けました!」
「えっ?」
不意に輝きだすエネカを見て、僕は自分の失敗に気付く。そう、僕はうっかり失念していた。エネカが僕の考えを読めることを。
そして4つ目のスキルが選ばれる。スキル名は『花嫁獲得』。その能力は“生涯を共にする運命の相手が現れる”。
この時の僕は、このスキルがどんなに恐ろしいものか気付いていなかった。
だから単純に喜んでしまった。
仕方ないよね、だって夢見る童貞なんだもの。
ぎぶみーお★様!
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