本物の霊能者
世の中ちょろいもんだ。ちょっと何かが見えるとか、声が聞こえるとかそんな事を適当に言っているだけで、いつの間にか俺は一流霊能者の仲間入りを果たしていた。
名声はうなぎ上りで、今や取材やテレビ番組に引っ張りだこ。あぁ、人生は素晴らしい。
人気者の俺は今日もテレビの心霊特集でとある駅に連れて来られている。どうやら霊視で殺人事件の犯人を見つけて欲しいそうだ。まったくバカバカしい、そんなものわかるはずもないだろう。まぁいい、この駅は昔良く使っていた駅だからとっておきのネタもある。いつも通り調子を合わせて一稼ぎしてやるさ。
駅のホームにつくとカメラが回り始め、アナウンサーが神妙な顔で俺に尋ねる。
「昔この駅で男性がホームから突き落とされ、殺されるという痛ましい事件がありました。警察の懸命な捜査にも関わらず今なお犯人は見つかっていません。男性の無念の声から犯人を探し出すことはできるでしょうか。」
俺は目を閉じ、何かを感じるフリをし、数秒の間をおいてゆっくりと話し始める。
「ハッキリと見えます。歳は40歳ぐらいで手入れされた口髭を生やしていますね。亡くなったときの服装はブラウンのスーツを着ていたようです。」
アナウンサーは手元の資料に目をやり、上気した顔で捲し立てる。
「亡くなられた方の特徴とピタリ一致しています。犯人は誰だと言っていますか。」
俺はまた無意味な間を開けてから話し始める。
「そうですね、犯人は・・・」
そう言いかけた瞬間、耳元で男の声がした。
「オマエダロ」
それはもうこの世にいないはずのサラリーマン時代の嫌味な上司の声だった。