戦場の囀ずり(さえずり)
3、囀ずり
俺は島の中心を目指し、歩み始める。ザリッザリッと砂を踏みしめる。すると二階建てだろうか、そのくらいの高さがある、一軒家にたどり着いた。ベルトポーチの中に入っていた地図を見るが、歩き始めてからあまりたっていないのでまだ中心には程遠いだろう。辺りに誰か居ないか確認し、建物の中に入ってみる。建物は真新しいが誰も居ない。不振に思いつつ建物内を探索する、リビングだろうか、此処に住んでいたであろう家族の写真が飾られている事に気付く。
「これ、俺の子供の頃の写真じゃないか!」何故か自分の子供の頃の写真があり、少し気が動転した。
「な、何で俺の餓鬼の頃の写真があるんだ?」俺は少し怖くなり、リビングから慌てて出た。
「此処は俺が昔、住んでた所にそっくりじゃないか!」ここで俺は思い出した。
「ここの家が昔、俺が住んでいた所と一緒なら地下室が隠されているはず」俺が住んでいた家の地下室には色々な備蓄があったはず、此処に隠れていたら殺される事も無いと思い地下室への階段が隠されている2階の寝室に行く。
「よし、ここだな」何の変哲も無い壁に向かう、この階段は特殊で二階から地下室まで繋がっているのである。
「おわっ!埃が一つも無く、とても綺麗じゃないか…」俺は辺りを見渡しながら言葉を溢す。
「よし、こんなに水や食料があるなら外に出なくて住むぞ!」
この家に隠れて3日たった、この3日は色々あった、まず参加者が20人から16人になった。ゲームは進行している様だ、俺はこの3日間実験をしていた。
「圧縮」缶詰めに能力を使う、缶詰めは圧力に耐え切れずぺしゃんこになってしまう。
「解放」ズドン!と音がなり缶詰めが爆裂する、缶詰めの中身が辺りに飛び散る。この能力について解った事は今はまだ発動範囲が狭い事、目に見えており、小さなモノなら能力が使える事、音は上まで響かない事が解った。
「能力の進化ってどうしたらなるんだろう?」そう考えていると上の方から歌声?の様なものが聞こえてくる。
「な、なんだ?」地下室の更に奥に隠れながら状況を呑み込んでいく。『振動』そう聞こえると、大きな揺れが身体を襲う。俺は急いで階段を上る。二階の部屋に着いた瞬間揺れに建物が耐え切れず倒壊していく。「ッ!!!」俺はリビングのソファーなどがクッションになり身体は奇跡的に無傷だった。
「痛てて」頭を書きながら身体を起こす。
「ふふっ♪やっぱり建物に居たんだー」
「誰だ!?」
「んー私はね、ハミングだよ♪」
ハミング「貴方は誰なの♪?」
「俺?俺は…」ハミングと名乗った女に誰か尋ねられても何故か名前が思い出せない。そのまま考えているとハミングが痺れを切らして言う。
ハミング「もういいの♪これから殺す人の名前なんか聞きたくないの♪」ハミングは興味が無いように言った。
「殺されるのはお前かも知れないのに、こんなの止めたいと思わないのか!?」
ハミング「これは私がしたいと思った事なの♪さっさと死んで欲しいの♪」ハミングはスピーカーの様なモノを口元に構える。
ハミング「嗚呼、悲しみの雨に打たれた猫は無惨な姿になりました♪」ハミングは歌を歌う。俺は呆気に取られながらその歌声を聞く。
ハミング「振動、悲しみの雨♪」ハミングが能力を発動させる。
「ぐっ!」振動の粒が全身に当たり体から力が抜ける。足で踏ん張り、転倒しないように力を全力でいれる。体に力が戻ってくる。
ハミング「♪あらら?私の歌で倒れなかった人は初めてなの♪」
「ハァハァ、いきなり何すんだ…」俺は力が戻りつつある中、後ろに後ずさる様に歩く。
ハミング「逃がさないの♪」
ハミング「嗚呼、悲しみに濡れた顔に光を♪」
ハミング「振動、喜びの狂想曲♪」振動の波が大地を揺らす。振動が大地に伝わり、砕ける。
「うおっ!」地面が陥没し、足を取られる。
ハミング「これで御仕舞いなの♪」ハミングは俺の胸辺りに手を置いて能力を起動の為に歌を歌う。
ハミング「嗚呼、愉しい遊びももう終わりなの♪」歌詞を歌っていくと同時に俺に死が近づいて来ているのを感じる。
ハミング「空飛ぶ小鳥は地に墜ちた、哀れな小鳥に最後の囀ずりを♪」
ハミング「振動、最終死想曲♪」
「がはっ!」振動が全身をくぐり抜けナカを破壊していく。
「うっ、ゴホッ」俺は血を吐き悶える。意識が朦朧とする中、あることを思い出す。
(俺はまだ死にたくない!俺には能力があるじゃないか!!このままやられっぱなしで終われるかッ!!!)
「ウオオオオオオッ!」気合いで気絶するのを防ぐ、此処で気絶したら確実に殺されるだろう。
ハミング「あらら♪楽に殺してあげましたのに♪」
ハミング「まだ苦痛が欲しいの♪ならゆっくり痛め付けてじっくり殺してあげるの♪」
「くそッ!間に合え!!!」俺は痛みに耐えながら走り出す。一歩一歩、確かに走る。
「あった!」俺が目指していたのは例の建物にたどり着く途中で見つけた湖に到着する。俺が欲しかったのは水、これを圧縮する!そしてハミングにぶつかる瞬間に圧縮した水を一気に解放する。これで俺は彼女を、彼女を…殺すッ!
ハミング「やっと追い付いたの♪以外と逃げ足が早いの♪」
「もう、俺は逃げない!此処でお前を殺す!」俺は湖の水に手を触れる。
「圧縮!」水が圧縮され小さな粒が大量に出来上がる。
「くらえ!!!」俺は水の粒…弾をハミングに飛ばす。
ハミング「こんなの水滴でどうにかなると思ったの♪」
「解放、水神の怒り」解放により、ただの水の粒が爆弾の様にすべて爆裂する。
「や、殺ったか!?」
ハミング「危なかったの♪後少し振動が遅れていたら死んでいたの♪」所々爆破のダメージで血が出ている。
ハミング「もう、怒ったの♪」ハミングは地面を振動させ俺を湖に落とす。
「うわっ!」ボシャンと音を立て俺は湖に落ちる。
ハミング「嗚呼、終わりの刻、もう誰も助からない♪」
ハミング「振動、終演の霊想曲♪」ハミングの歌声は大地を空気を湖を揺らし俺を殺さんと殺到する。
「ゴボッゴボッ」俺は湖から出ようとするが振動のせいで身体に傷が入り、痛みが体を貫く。
(ヤバい、酸素が足りない!このままじゃ、このままじゃ死ぬ!!)
数秒後、ハミングの技で水柱があがる。
ハミング「あら?もう死んじゃったのかな♪」少し経ってから湖に血溜まりと衣類が浮かび上がる。
ハミング「ふふっ♪私の前では皆が無力なの♪」「圧縮」
ハミング「なっ!なんなの♪」ハミングは咄嗟に身構えるがもう遅い!
「解放、大血の奔走ッ!」ハミングの背中に手を置きながら叫ぶ。ハミングの体に圧縮を数回弱く違う所にかけ一気に解放する事により体内の器官、組織、細胞を破壊していく。
ハミング「嗚呼ッ!嗚呼ッ!痛い♪痛いの♪」ハミングは痛みに悶えながら血を吐く。
ハミング「嗚呼♪もう死んじゃうの♪意識が無くなりそうなの♪」
ハミング「最期にもう一度会いたかったな…♪」ハミングは最期を歌いながら過ごした。それは戦場に囀ずる鳥の様だった。俺は少し歩き言葉を漏らす。
<You killed H a m i n g !>
「や、殺っちまった…」俺はハミングと名乗った女性を殺した。後から罪悪感が沸いてくる。
「仕方なかった…正当防衛だ…」
「殺してしまったのは事実だが殺される前に殺しただけだ…」ハミングの返り血が俺の頬を伝う。恐怖とやりきれない気持ちが込み上げる。
「クソッ!」俺は力なく地面を叩き続けた。ハミングを殺してから数時間がたった、俺の精神は限界に近づきつつあった。
「殺される前に殺さないと…」この日から俺は少し変わってしまった。
後15人…