⑦追うもの、追われるもの
⑦追うもの、追われるもの
亜蘭はゆっくりと薄暗い道を歩いていた。そこは大学では無いような世界が広がっていた。あの日、この大学に派遣されてきた時、このような使命が自分に果たすことができるのか不安だった。
「自分は、ここに存在してはいけない。この世界では、自分の存在自体が異物なんだ。」
ずっと、そう思い続けていた。正直、望んでここに来たのではなかった。使命で派遣されただけで、自分はこの世界の人間と同じように楽しく過ごしてはいけない、孤独な一匹狼で生きていこうと思っていた。でも、周りの環境がそうはさせてくれなかった。何人かおしゃべりできる友達も出来たし、なおかつ、こんな自分と何の違和感もなく接してくれる不思議な由梨亜と出会えた。僕はここに派遣されて、ここで皆と出会えて、心から良かったと今は思っている。本当にもう十分だ。だから全て終わらせる。今日、決着をつける。
息を殺しながら一歩一歩、慎重に踏み出していたつもりだったが、いつの間にか周りを黒い壁のようなものに囲まれていた。亜蘭は、ゆっくり立ち止まった。黒い壁は少しずつ彼に迫った。彼は両手を広げそれを受け止めようとした。みるみる、指先から黒い壁に吸い込まれていった。しかし、次の瞬間、不思議なことが起こった。指先の触れたところから黒い壁が黄色い光に変わっていったのだ。亜蘭がそのまま一回転すると、周りの黒い壁がみるみる黄色い光に包まれて、そこから空に向かって黄色い光ごと空へ飛び出した。たちまちその光は包み込むようにして渦巻き始めた。彼は、今だというタイミングで、首にかけている青いペンダントを両手で祈るようにして呪文を唱えた。すると青いペンダントは光を放ち始めた。彼はその光を黒い壁の方へ投げた。一瞬の沈黙と爆発音。砂埃が立ち、辺りは何も見えなくなった。亜蘭は砂埃を手で切り裂いた。視界が開けると黒い壁は無くなっていた。代わりに両手に収まるくらいの黒い綿毛のような物がふわふわと浮いていた。亜蘭は、手を拳銃のような形にしてそれに向かって目に見えない何かを打った。するとその綿毛は、風船が破裂するように破れた。
辺りがだんだんと明るくなり、周りの景色も元に戻った。もうすぐ朝日が昇る時刻だ。遠くの方から由梨亜がかけてくるのがぼんやりと見えた。
由梨亜は亜蘭の目の前に立ち、亜蘭の目をまっすぐに見つめた。お互い、何も言葉をかけなくても言いたいことはすべて伝わっているようだった。
「由梨亜ちゃん、最後に一つだけお願いがある。」
少し照れくさそうに口を開いた。
「・・・・・・・・・なぁに?」
亜蘭は、由梨亜に背中を向けて人差し指でちょうど心臓の真後ろを指さした。
「背中のここらへんに手を当ててみてくれない?」
亜蘭は、あの記憶の無い夜のことがずっと気になっていた。あの時、自分に何が起きたのか。そして、どうしても由梨亜に確かめたいと思っていた。すると、由梨亜は苦笑しながら意地悪な顔で言った。
「なにそれ。亜蘭くんは、女の子に身体を触らせる趣味がおありなのですねー。」
すると、亜蘭は少し動揺しながら
「い、いやいや。違う、違うって!そういうことじゃなくて。」
と振り返った。その瞬間、由梨亜は亜蘭の首に抱きつき背中に触れた。いきなりの出来事に、亜蘭は戸惑った。そして、由梨亜は亜蘭にだけ聞こえるような声で言った。
「何があっても、生きてね。色々とありがとう。」
弱々しい由梨亜の声を聞くと亜蘭も、由梨亜を優しく抱きしめ返しながら
「こちらこそ、ありがとう。」
と耳元でささやいた。
生徒が賑わう中庭で、ある男子生徒達が話していた。
「あ、そうえばもっちー、丸山は?最近、あいつ見なくね?」
革ジャンを来た、男子学生が言った。
「あぁ。携帯壊れたって言ったっきり、連絡無いけど・・・・・・」
もっちーを含めて彼をあの日以来、大学で見た者はいなかった。
「あ、そういえば丸山の英語クラスに、大学やめた奴出たみたいだよ?俺たちそこの枠狙えるんじゃね?」
「英語クラスアップの可能性があるってこと?」
そして、また彼女の姿も大学に無かった。大学内には、心地の良い風が吹いていた。
~終わり~
※この物語は、フィクションです。
~あとがき~
どーもNoeruです。今回の小説は推敲を重ねて、ガチで書きました。個人的にキャラクターに愛着が湧いています(笑)
舞台のモデルは、とある大学であります。身内ネタや、私の周りで実際にあったことをモデルにしている場面が多々あるのですが、誤解を招く前に一つだけ言わせてください。由梨亜のモデルは特にいません!完全に私の空想人物です。(そこは、声を大にして言っておきたい・・・)
個人的に気に入っている場面は、亜蘭が由梨亜に自分の秘密を打ち明けるところです。「僕はこの世界自体が異世界なんだよ。」中二っぽいセリフだけれど、想像したらちょっとかっこよくないですか?(笑)まぁ、後は番外編がお気に入りですね。本編とは全く関係ない場面ですが、こういうキャラクターの日常を書くのも楽しいものです。最後に挿絵を描いてくれた杜若 凛さんや主人公のモデルを引き受けてくれたメシアさん、本当にありがとうございました。
他にも主人公の名前の案を出してくれたDさん、推敲を手伝ってくれたKさんとみ。さんなど多くの方々に支えられながら、なんとか最後まで書き終えることが出来ました。もちろんこの小説を手に取ってくれた読者のみなさんにも感謝しています。また皆さんとお会いできる日を心より楽しみにしています。
Noeru