②追うもの、追われるもの
②追うもの、追われるもの
『まもなく発車します・・・・・・・・・』
スクールバスがエンジンをかけ発車した直後、バスが急停車した。
『え、えぇ・・・・・・ただいま、学校の近くの道路にて、事故が起きたという連絡が入りました。道路が一時通行止めで通れないそうです。――――発車までしばらくお待ち下さい。』
バスの中の乗客は彼女1人だった。そのため、バスの車内は運転手の声だけがよく響いていた。出発時刻の目処が立たないということで彼女は、しぶしぶそのバスから降りて、別のルートで帰路につくことにした。学校からは、別のスクールバスが通っていて、幸いにも彼女は、もう一つのバスでも家に帰ることができた。
「お願いします・・・・・・」
もう一つのバスに乗り込むと、さっきのバス同様、物音一つせず静かだった。それもそのはず。なぜなら、このバスは最終バスだったからだ。彼女はバス前方の入口向かい側の席に腰を下ろした。
『まもなく発車します。』
彼女の乗り込んだ数分後、バスが動き出した。バスは学校の門を出て、1番目の信号につかまり急ブレーキをかけた。
「痛っ!」
彼女は、読書に夢中になっていたため、前の席に頭をぶつけた。その時、横から視線を感じて、ゆっくり顔を向けた。それまで全く気が付かなかったが見覚えのある顔がそこにはあった。そして、その彼と目が合ってしまった。気まずくなってお互い一度、目を逸らした。でも何か引っかかり、再び横を見た。すると今度は彼とばっちり目が合った。
「お、お疲れ様。」
あまり喋ったことの無い彼が戸惑いながら話しかけてきた。
「お、お疲れ様・・・・・・・・・」
彼女は、彼が何者であるかを思い出した。
話は二時間以上前に戻る。
「はい、チャイムが鳴ったから授業終了です。レポートが終わっていない人は、居残りです。」
英語の授業がチャイムと同時に終わった。しかし、授業中にレポートが終わらなかった生徒は居残りをして、今日中にそのレポートを提出しないといけなかった。そのため、クラスの半分くらいの生徒は家に帰れなかった。その中で、特にレポートが終わるまでに時間がかかったのが丸山亜蘭と石川由梨亜だったのだ。
「・・・レポート、面倒くさかったね。」
由梨亜が亜蘭に話しかけた。亜蘭は少し、驚いた顔をしていた。
「でも、石川さんは僕みたいに単位をとるためじゃないでしょ。満点とかクラス1番を目指してあんなに時間かかってたんでしょ?」
「い、いや、そんなことは・・・」
由梨亜はお茶を濁すように言った。しかし、亜蘭はとどめを刺すように続けた。
「だって、何枚もレポート用紙貰って、推敲してたじゃん。」
由梨亜は黙った。亜蘭は、その様子を見てニヤニヤしながら続けた。
「納得のいくレポートが書けたの?」
「・・・まぁね。」
その後、二人の間に沈黙が流れた。バスの外は暗く、どこまでも続きそうな一本道が続いていた。由梨亜は、ふと亜蘭のほうをちらっと見てから口を開いた。
「『石川さん』じゃなくて、由梨亜でいいよ。あんまり、自分の苗字気に入ってないから・・・。もっと、かっこいい苗字だったら良かったなぁ・・・。」
由梨亜は、頭の後ろで腕を組んだ。
「何それ。苗字なんて選べないでしょ?・・・と、いうよりなんか意外だなぁ。」
「なにそれ。どういうこと?」
由梨亜は、不思議そうな顔で亜蘭の顔を覗き込んだ。
「いや、だって、石・・・由梨亜ちゃんって、なんか周りの人と関わらないっていうか関わりにくいというか・・・。だから、僕と今、こうして話をしている状況が意外でさ。」
亜蘭は、顎に手を当てながら答えた。
「それはお互い様でしょ?亜蘭くんだって、1人でいる時の方が多いでしょ?周りを避けてるっていうか・・・。」
亜蘭はそれを聞き、驚いた顔をした。
「いや、僕は周りを避けてるんじゃなくて、極度の人見知りで周りにとけこむまでに時間がかかるんだよ。それと一緒にしちゃダメでしょ。」
その後すぐに亜蘭は苦笑いをした。しかし、その笑いは別に寂しそうでもなく、そうしたいからそうしてると語っているような感じだった。
「なんか、亜蘭くんって名前もそうだけど、不思議だよね。」
「いきなりどうしたの?どういうこと?」
お互い顔を見合わせた。
「いや、えっと、なんか、雰囲気が別の世界から来た人みたいっていうか・・・・・・・・・。」
「それは褒めてるのかい?それとも馬鹿にしているのかな?そのイメージはやめてよ。小説とか漫画の読みすぎなんじゃないの?」
亜蘭は、内心少し焦っていた。しかし、由梨亜はそんな彼の様子を気にすることなく続けた。
「そうかなぁ・・・。ぶっちゃけ、異世界から来たでしょ?私さ、けっこう、そういう珍しい人と縁があるのか、よく出会うんだよね。」
それを聞き亜蘭は、少し困った顔をした。
「まぁ、異世界があったらいいなとは思うけど・・・。ところで由梨亜ちゃんは、過去にどんな人と出会ってきたの?」
亜蘭は、興味深そうに聞き返した。
「うーん、霊感が強い人とか、天気を当てられる人とか・・・・・・あとは、極度の同性愛者とか?」
「なにそれ。」
亜蘭は、笑った。そんな会話をしているとちょうど、バスが駅に着いた。
「じゃあね、僕はこっちだから。」
亜蘭は、由梨亜が歩いて行こうとした方向とは逆の道を指さしながら言った。由梨亜はこっちという言葉に反応して、爽やかな笑顔で亜蘭に言った。
「あぁ、あっちなのね。あっちの世界なのね。」
「うん。え?いや、違うから!普通にこの辺に住んでるの。暗いから気をつけてね。」
亜蘭は、それだけ早口で言い残して逃げるように行ってしまった。
にゃーおーん・・・・・・・・・
月明かりが綺麗な夜。山も森も無ければ川もない。高くも低くもない中途半端なビルが立ちならぶ駅周辺。亜蘭は、暗い曲がり角を真っ直ぐ歩いていった。そこには、猫の鳴き声が響いているだけで、足音一つ無かった。




