①追うもの、追われるもの
①追うもの、追われるもの
辺りが暗く静まり返った夜の大学キャンパス内。
最終バスもなく、普段なら、もう誰もいないはずの時間だった。
しかし、大学のキャンパス内はなぜか、強風が吹き荒れていた。
その風はただの強風というレベルの風ではなかった。
この大学には目立つ大きな建物が一つも無い。(だから、この風は決して、ビル風などではない。)
その異常に風が吹き荒れる夜のキャンパス内に影が一つ。
その影はマントのようなものを頭からかぶっていて、性別すら分からなかった。
影が月明かりに照らされたと同時に鋭く片腕を上げて、その異常な風を切り裂いた。
しかし、その風は一向に止む気配が無く、むしろさっきより強く吹き荒れた。
ゴォォォォォ
ちょうどその時、強風が影めがけて鋭く吹き抜けてきた。
その影はあまりの風圧に耐えきれなくなり、数メートル飛ばされ地面に強く叩きつけられた。
「グハッ。」
その影が起き上がる前に強風は同じように、その影へと一直線に吹き抜けようとしてきた。
しかし今度はおかしなことが起きた。
その第2波がくる直前、叩き付けられた影が一瞬にして姿を消したのだ。
まるで、そこには最初から何も存在していなかったように違和感がなかった。
普通の人間だったらそんな芸当はできないはずだ。
ゴォォォォォ
風が生き物のようなうねりを上げて吠えた。その直後だった。
地面がいきなり光を放ったかと思うと、敷き詰められたレンガがぐにゃぐにゃと曲がり始めた。
雲に隠れた月が顔を出すと同時に、その消えたと思っていた影は近くの建物の屋根に瞬間移動をしていた。
頭までかぶったマントからは全ての光を吸収しそうな真っ黒い瞳と何かつぶやいている口だけが見える。
その直後、影が立っていた建物周辺の地面が真っ二つに割れ、見えないはずの風はその穴に落ちていった。
地面はすぐに元通りになったが、屋根の上にいた影は力尽きたように地面に落ちた。
しばらくうつ伏せだったが、やがてゆっくりと起き上がった。
なんとか膝立ちはできるものの、相当体力を消耗した様子だった。
「ハァ、ハァ・・・・・・・・・。」
誰もいない静まり返った夜のキャンパス内では、マントの下から聞こえる苦しそうな吐息だけが響いていた。しかし、それだけでは終わらなかった。前方からさっきとは別の何かが迫り来る気配がした。暗くて遠くの方はよく見えないが、おかしな音がこちらに近づいてきていることだけは確かだった。視界にその姿を捉えた時には、もう遅いと反射的に頭で理解した。意識が朦朧とし始めた瞬間、背中から心臓あたりを何かに触れられた気がした。それは柔らかくて、少し温かくて・・・・・・人間の手だった。触れられたところから力がみるみると抜けていき、そのまま意識が薄れていった。その影はマントの下から最後の力を振り絞り、かすれるような声でつぶやいた。
「エナジー・・・ド・・・レイン・・・・・・・」
その後の記憶は無論、何も無い。