091 年齢は誤魔化してません
2019. 3. 5
驚く時島に説明をと思ったのだが、それよりも厄介なのが反応していた。
「キショウさん!!」
《っ……》
途端に少し困ったように半歩身を引く綺翔。それに気付いて高耶が隣にいる俊哉の頭を押さえた。
「黙ってろ、俊哉。綺翔、気にするな。常盤もすまんが小さくなってくれ。人型では校内を回れないからな」
《……諾》
《承知しました》
これを受け、綺翔は白に近い金の毛の子猫になり、常盤も同じ色の小鳥になる。
それぞれ高耶の座るソファの肘掛けにとまった。
「状況を確認したい。人目につかないよう、校内を見回ってきてくれ。完全に穴が空いていたら、脅しつけて妖が出てこないように」
小さく頷いて見せた二匹は、するりと部屋のドアをすり抜けて出て行った。
「へ? すり抜けた!」
「あれくらい出来る。いちいち興奮するな……あの、時島先生……」
「あ、ああ……」
ものすごく驚いた顔をしていた。
「先生には私から説明しておくわ。戻って来てくださるのよね?」
「はい。場合によっては妹を連れて来ても?」
「もちろんよ。そっちの彼もここで待っていてもらうわ」
「おう。待ってるぞ〜」
俊哉も説明に付き合ってくれるようだ。それならと、高耶は校長室を出て門へ急いだ。
◆ ◆ ◆
高耶が出てくると、丁度子ども達が校門を出て行く所だった。
お迎え組は親を見つけて駆け寄り、それ以外は真っ直ぐに家に向かって下校していく。
学年下校なので、低学年の一二年だけのようだ。
優希はいつもの友達と一緒にいるらしい。確かカナちゃんとミユちゃんだ。カナちゃんの母親が迎えに来ていた。
下校中に危ない目に合ってから、二人の母親は交代でなるべく迎えに来るようにしているらしい。
外からではなく、学校の中から現れた高耶に不思議そうな視線が向かってくる。そこで、優希が気づいた。
「あれ? おにいちゃん、なんでがっこうのなかにいるの?」
これにより、高耶を見てもピンと来なかったカナちゃんとミユちゃんもビックリしていた。
「知り合いの先生と話してたんだよ。こんにちは」
母親に挨拶をすると、こちらも目を見開いていた。だが、何度か会った優希の兄だと気付くと笑みを浮かべた。
「びっくりしたわ。お兄さんだと気付かなかったじゃない。今日はコンタクト?」
やはり、黒縁メガネの印象が強かったらしい。
「いえ、いつもは伊達なんです。色々見え過ぎるもので」
「大学生だもんね。レポートとかでパソコン使うし? あ、でも恥ずかしがり屋だとか?」
「それもあります」
クスクスと笑われても悪い気はしない。そんなお母さんに高耶は日頃の礼を言う。
「時々、家まで送ってくださっているとか、ありがとうございます」
「ああ、いいのよ。こっちだってハクさんに送ってもらう時あるもの。それに、ハクさんと帰りにお買い物して帰るのが楽しみだったりするしね」
「買い物ですか?」
「そう。お夕飯を何にするかとか、よく話し合うのよ」
知らなかった。珀豪は何気に対人能力が高いらしい。有能でなによりだ。
自身の知らなかった珀豪のご近所付き合いに驚いていると、優希が服の裾を引っ張った。
「おにいちゃん、しりあいのセンセイって?」
「ああ、時島先生だ。小学校の時に担任だったんだよ」
「きょうとうセンセイが? すごいね」
何に感心したのか分からないが、どうやら教頭先生が担任だったことが優希にはすごい事に感じたらしい。
「この後、もう少し先生と話があるんだが、どうする? 珀豪と先に帰るか?」
「う〜ん……ううん。たまにはおにいちゃんとかえりたい」
「っ、そ、そうか」
不意打ちで可愛いことを言ってくれた。ちょっと感動だ。
「なら、校長室に行くぞ」
「えっ、こうちょうしつ? はいるの?」
「ああ。校長先生とも知り合いなんだ。嫌か?」
「ううん。おにいちゃんのしりあいならだいじょうぶ」
やはり、一年生でも校長室は入りにくいと感じる場所なのだろう。少し緊張気味だ。
「あ、ねえ、えっとお兄さん」
「高耶と呼んでください。なんです?」
「う、うん。タカヤ君。校長先生ってどんな人? なんか、女の校長だから力がないとか色々聞くんだよね」
「そうなんですか?」
あまり例のない女性の校長だ。母親達も若いとはいえ、校長先生は男が当たり前という世代なのだろう。
「そうですね……言いたいことは、男にでも目上の人にでもはっきりと言える方ですよ。型に捉われない柔軟な考えもお持ちです。何より、彼女も母親です。お母さん達の考え方に近いものを持っていますから、話しやすいと思いますよ」
女というだけで、社会の中では立場が弱くなりやすい。同じ女である彼女達でさえ、そういうイメージを持ってしまうのだ。
だが、味方が少ない分、社会で生きる女性は強い。強い信念を持って、負けないと思っている女性が多いのだ。
そんな頑張っている女性達の足を、固定観念だけで引っ張ってはならない。
「あ、そっか……そうよね。旦那より母親の私の方がこの子の事色々知ってるのと同じよね。なんか、やっぱPTAとか役員じゃないと校長先生とは話しできないし……私もパートあるから、時間なんて上手く出来ないんだけど……ほら、手紙とかさ……なんか相談しやすいこと出来ないか聞いてみてくれない?」
共働きのお母さん達だけでなく、最近は習い事が多いため、学校で集まって意見交換というのに出席するのは難しいのだろう。
出来れば仕事先に迷惑をかけたくないし、時間が出来ないのを子どものせいにしたくない。
「役員の人に言えばいいんだろけど、知り合いじゃないと言い難いんだよね。それに、役員の人達の種類っていうの? なんかやっぱ私達とはちょっと意見とか違うんだよね。見てるところが違うっていうか……政治家みたいとまでは言わないけど、感じてることが違うと思うのよ」
下の意見が聞こえ辛いのは、小さな学校単位でもあるようだ。直接上に言ってやりたい不満も溜まっていく。
そうすると、学校の方針に意見も出来ない。不満だけが募り、そのうちに保護者達の不満が爆発する。
意見がなければ、学校も『分かってるんだな』で通してしまうので、すれ違い続けることになるのだろう。
「分かりました。話してみますね」
「ごめんね、面倒なこと頼んで」
「いいえ。こういう意見も大事だと思いますから」
「……タカヤ君、本当に大学生? うちの旦那よりしっかりしてるんだけど」
「あはは……褒め言葉として受け取らせてもらいます」
年齢詐称していると疑われるのは実は慣れている高耶だ。年上を相手にする仕事なので、気を張って精神年齢を上げようと頑張ってきた。お陰でこんな返しも自然と出る。
「じゃあ、またね。ハクさんにもよろしく」
「はい。優希、カナちゃんとミユちゃんに挨拶して」
「うん。バイバイ。またあしたね〜」
「「バイバ〜イ」」
高耶と手を繋いだ優希は手を振りながらついてくる。
「ちょっとだけ仕事もするけど良いか?」
「いいよー」
ご機嫌な様子で見上げてくる優希。
「この格好でよかったか?」
「うん! なんでいっつもそうしてないの?」
「……あ〜、恥ずかしがり屋だからな……」
「そっか。ならしょうがないね」
「……」
やっぱり女の子って複雑だ。
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次回10日の予定です。
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