085 落ち着いてもらいたい
2019. 2. 7
次の日、統二も学校がある。現役の高校生なのだ。優希が帰る頃には帰って来られないだろう。
「僕も行きたいんだけど……」
「授業はちゃんと受けてこい」
「うん……けど、高耶兄さんといる方が勉強になると思う……」
陰陽師としての勉強にはなるだろう。だが、学校は行くべきだ。そう朝から説得していた。
「高校は今しか行けないだろう? こっちの経験は今後もできる」
「……わかったよ……」
本当に渋々という感じで頷く統二。着ている制服は、有名な進学校のものだ。
「統二君、頭良いのね」
美咲が羨ましそうに、感心したように呟く。どこの親も、やはり頭の良い学校へ子どもが行っているというのは嬉しいものらしい。特徴ある制服なんてものは、それを宣伝して歩いているようなものだ。
「僕は勉強くらいしかまともに出来ないから……けど、高耶兄さんなら問題なく行けたと思いますよ?」
「高耶、そうなの?」
「……どうだろう……」
高耶は高校入試を考えていた頃のことを思い出す。確かに、担任から行ってみないかと言われたいくつかの高校の中にあった気がする。
だが、当時の高耶は当主としての仕事もあり、更には夫を亡くして弱っている母の事も気にしていた。だから、迷わず一番近く学費の安い高校を選んだはずだ。
当主であっても、収入はあってないようなもの。連盟に管理を任せていたし、母子家庭だ。金銭的な余裕はあまりなかった。それが統二にも察せられたのだろう。
「……高耶兄さんって、学費とか気にしてそう……」
「高耶……」
「いや、うん……確かに近くて安い所を選んだ気が……するな」
ここは正直に答えておく。
「はぁ……まったく、こうゆうのを聞くと、もっと早く色々知りたかったって思うわ」
「悪かったって……ほら、統二行くぞ」
「あ、はい。行ってきます」
「いってらっしゃい」
話を切り上げ、高耶は統二と家を出た。途中の駅まで一緒に行くのだ。
「家のこととか、話してなかったの?」
「未熟な内は、守れないだろ……」
「あ……うん。そうだね……」
並んで歩きながら、そんな話をする。すると、統二は嬉しそうに表情を緩めた。
「高耶兄さんのそういうところ、すごいなぁって思うよ」
カッコいいなと続けられて、高耶は照れてしまう。そんな風に見えているのかと内心は苦笑を浮かべていた。
統二と駅で別れ、高耶は大学へ向かう。改めて思うと、統二とこうして登校するということがおかしな気持ちだった。
◆◆◆◆◆
忘れていたというか、昨日は色々とあり過ぎてこいつの事を気にしていなかった。
「高耶ぁ! いやぁ、昨日は興奮して寝られんかったぞ」
「お前が言うと誤解を受ける。それと抱きついてくんな」
感動と興奮のあまり、俊哉が両手を広げて突進してきたのだ。周りの目が痛過ぎる。熱烈な歓迎を避け、高耶は冷静に講義の準備を始めた。
「お前……なんでそんなに普通なん?」
「俺はいつでも普通だろうが……」
「なんでだよ!」
「落ち着けバカ。始まるだろ」
「分かったよ……」
非日常を体験して、興奮しない方がおかしいのだろうか。俊哉は講義中も落ち着かないようだった。
それに対して、高耶は至って真面目に講義を受けていた。
講義が終わると、すぐに俊哉が何か言いたそうにこちらを見たのだが、その時、教授に声をかけられた。
「蔦枝、運ぶの手伝ってくれ」
「はい」
先ほどまでの講義は雛柏教授のものだった。今日の講義はこの後、昼からのひと枠しかない。それを知っているからこそ、教授はこうして荷物運びを頼んでからお茶に誘ってくれる。
「……俺も手伝う」
しかし、今回は高耶と喋りたくて仕方がない俊哉が付いてくるという。これに苦笑し、頷いた。一度ちゃんと話してやらないといつまでも煩そうだ。
「なぁに? 和泉君だっけ? 今日はそんな熱心な感じじゃなかったのに、手伝っても簡単には単位あげないよ?」
「いや、今日は……すんません……」
階段教室では、生徒一人一人がよく見える。集中していないのは丸わかりだっただろう。
仕方ないので高耶がフォローしておく。
「こいつの親戚の家で昨日、秘伝の方の仕事をしたんですよ。それで今日は話したくて仕方ないらしくて」
「あらら。なるほどね〜。そういえば、昨日、秘伝の方で何かあったって聞いたんだけど」
「ちょっとウチのがやり過ぎたんですよ……」
雛柏教授は、秘伝のことも知っているのだ。こうして普通に話しができる。
「因みに、やり過ぎたって君の最強式神さん達何したの?」
面白そうに笑みを浮かべながら尋ねられ、高耶は正直に答えた。
「本家を強襲しました。家の大半が倒壊しましたよ」
「え? ちょっとそれ、大丈夫だったの?」
「安倍の当主が手を回してくれてました。結界で完璧に覆うとか……完全に面白がってましたよ」
有り難いとは思うが、間違いなく面白がっていた。
「最高強度の結界とか……どんな暴れ方すると思ってたんだか……まぁ、助かりましたけど」
「あっはっはっ。それはまた、スッゴイ大物が出てきたもんだねぇ。そこまでしないといけないと思われてる君がスゴイよ」
「笑い事じゃないですって……さすがに反省しましたよ……」
これからは式神達の不満だけじゃなく、達喜や焔泉達が気を揉むような高耶自身の問題もちゃんと考えようと思った。
「な、なぁ……教授も高耶の仕事知ってんですか?」
「ん? うん。だって僕の親戚筋が、一応は陰陽師の端くれだからね。彼と会ったのもそのお仕事の時だったし?」
「えぇぇぇっ!?」
「……煩いぞ、俊哉」
けどだってと続ける俊哉を諌める。
「まぁまぁ、ほら、僕の部屋でゆっくり話そうよ」
「是非!」
「……教授……」
呆れる高耶に、雛柏は楽しそうに笑う。
「いいじゃない。僕の部屋なら他に聞かれる心配ないしね」
学食とかで追及されたら困るでしょうと返されれば、頷くしかなかった。
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