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秘伝賜ります  作者: 紫南
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081 密かに慕ってきた者

2019. 1. 24

統二にとって、高耶は幼い頃から憧れるヒーローのような存在だった。


体が弱く、秘伝の血を引きながら武術が苦手で、それを誤魔化すために統二は必死で陰陽術を磨いた。


高耶は忘れているが、統二はまだ高耶が当主になる前からずっと気にしていたのだ。


それは、強者を見極める力とでもいうのだろうか。統二は才能ある者の存在を感じ取る感覚に優れていたのだ。それは武を修める者にとっては重要な力で、秘伝の者として持つべきものだった。


高耶も幼い頃は秘伝の道場に通っていた。この本家のある麓の道場だ。そこでは本来、本家も分家もない。


もっと言えば、秘伝家の者でない一般の者達も通ういわゆる町の道場だ。


統二は長男の勇一に比べても体力、技術は低かった。今でこそ陰陽術の腕を認められているが、子どもの頃は父にも見放された存在だったのだ。


そこで、落ち込む統二を勇気付け、稽古に付き合ってくれたのが高耶だった。高耶は面倒見が良く、何に対しても飲み込みの早い優等生だった。


ただ、それが本家の関係者達は気に入らなかったのだろう。ともすれば、師範達でさえ脅かされる実力に気付き、教えることを放棄していった。


それでも高耶は気にせず、基礎から真面目に取り組んでいた。そんな姿は統二のようないわゆる落ちこぼれ達の希望になった。


山の階段登りの時も、置いていかれる者達に付き添い、声をかけてくれる。型の指導も『ダメだ』の一言で終わらせて背を向ける師範達に代わって、最初から丁寧に教えてくれた。


けれど、師範達に煙たがられている高耶に正面から懐いていますとアピールすることはできない。これ以上、師範達に見放されるのは怖かったのだ。


それでも、高耶に世話になった子ども達は、密かに『高耶兄さん』と呼び慕っていた。


高耶が当主になったと知った時の衝撃は忘れない。父の秀一や兄の勇一が愕然とする中、統二は影で叫び出したいほど喜んでいた。『高耶兄さんなら』とずっと思っていたのだから。


それから、何度も秀一達は高耶から当主の座を本家へ取り返そうと躍起になっていった。だからこそ、統二は高耶のために力を付けようと今までよりも必死になって陰陽術を磨いたのだ。


少しでも力になれればと思っていた。自分のことを覚えていなくてもいい。幼い頃に優しくされたその思い出だけが統二の支えで、全てだった。


ただ、秀一と勇一に連れられて行く会合で会う度に高耶に悪態をつく二人につき従わなくてはならないのは辛かった。もっと自分に力があれば、父や兄を黙らせられるだけの力があったならといつも思っていた。


高耶と会っても目を合わせないように。慕っていることを秀一達に悟られないようにするのに努めてきた。本家の者としての発言力は高耶の力になるはずだと信じていたから、何度も本家と縁を切りたいと思う自分を押し留めてきたのだ。


しかし今日、それももう潮時だと思った。


「た、高耶兄さんは覚えてないかもしれないけど……小さい時に稽古を見てもらった……ずっと力になりたくて……でも、本家の人間っていう立場が兄さんの役に立つ時もあると思ったから……」

「統二……」


本当はずっと前からそばにいられたらと願っていたのだと。そう、今なら伝えられると思った。


◆◆◆◆◆


高耶は統二の言葉に驚いていた。会っても頑なに目を合わせようとしなかった彼が、今は目を潤ませてこちらを見上げている。


そこで気付いた。統二の服が汚れていない。秀一や勇一、弟子達も皆が服を汚し、擦り傷や切り傷を作っているというのに、統二だけはきれいなままだった。


不思議に思っていれば、達喜がニヤリと笑って振り向いた。


「そいつの言ってることは本当だぞ。昔あっただろ、こいつらにハメられてお前が投獄されたやつ」

「え、ええ……」


苦い思い出だ。陰陽師として違反を犯した場合に捕らえられるのだが、これによって一週間投獄された。


力も何もかも封じられて、牢ではないが、小さな部屋での生活を余儀なくされる。それが十五の時。本来見えていたものも見えなくなり、当然だが珀豪達式神を呼ぶことも見ることもできない。そんな環境に閉じ込められた上、受験を半月後に控えていた時だった。


結果的に勉強が捗ったとも言えなくもないが、当時は事情を話せなかった母には知り合いの家で勉強を見てもらっていたのだと説明して納得してもらうのに丸一日かかった。


果てしなく面倒で許し難い一週間だった。


それが一体、統二に何の関係があるのだろう。


「そいつはな、お前が無実だって証拠を、ぶっ倒れるまで慣れない式を使って集めたんだよ。丁度、合宿だってんで、本家に悟られんからってな」

「……」


統二は合宿中ずっと証拠集めをしていたらしい。体調を崩しながらも家から離れたのを良いことに、当時まだ契約したばかりの式を使って。


「まぁ、そん時からちょいちょい式を介して相談は受けててなぁ。お前の式達もそいつは無害だって認識してたんだろ。瑶姫んとこの姉ちゃん達とも付き合いがあるみたいだしな」

「藤さん達と?」

「僕の式は藤さん達と同じ花の精だから……相談しやすくて……」


言われてみればそうだなと納得する。その時、こちらに歩いてきた者があった。


「統二君は、もう少し自信がつくと言うことないのですけれどね」

「っ……すみません……」

「瑤迦さん?」


現れたのは、藤を連れた瑶迦だった。


読んでくださりありがとうございます◎

次回、27日です。

よろしくお願いします◎

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