449 二日目が始まる
最終日である翌日は、午後を過ぎてから学校へ向かった。
「なあ、高耶……今日、連盟の人多くね?」
「ああ……」
それに気付いた俊哉が、思わず口にする。
「あの神様見に来たん?」
「昨日の夜から厳戒態勢なんだ……あの辺は徹夜組だ」
「え? 交代しねえの?」
一般人には見えないように、特殊な隠蔽の術をかけ、屋外、屋内、屋上と至る所に連盟の者達が潜んでいた。中には、見えないからいいものの、目を血走らせて、かぶり付きで土地神を見ている者がいる。それらは、徹夜で見ていた者達だろう。
「このタイプの土地神は珍しいんだ……」
「あの人ら、純粋に観察したくて来てんの!?」
「ああ……」
「神楽部隊の人もいるけど!?」
「普通に神様ファンだからな……あの人たち……」
「……なるほど〜」
是非とも神が変化する様を見なくてはと、自主的に駆けつけた者達も多いようだ。
「それにしても……めっちゃデカくなってないか?」
「サナギが、多少大きくなるのは間違ってないだろう」
「いや、でけえからっ。ほら、サナギって、生まれ直しみたいな感じじゃん? 中で再構築されるんだからさあ」
「そうなのか?」
「知らねえの? 高耶でも知らんことあるの?」
「当たり前だろ……」
なんだと思っているのかと、高耶は俊哉に責めるような目を向ける。すると、俊哉は気まずそうに目を逸らしながら続ける。
「うん。まあ……そうなんだってさ。液体化して構築とか、すげえなサナギってと、小学生の頃の俺は思ったわけよ。今考えるとちょいキモい」
「生命の神秘だな……」
「そうだな……でも、大きさがコレだけ変わるのは多分珍しい」
そう言って、サナギを見上げる俊哉と共に、高耶も改めてサナギを観察した。
「……確かに、二倍くらいにはなっているな……」
「そのまま膨張して破裂したらとかイヤなんだけど」
「イヤと言われても……どうなるか分からないんだが……」
「連盟で資料とかないのか?」
土地神に関することだ。資料があってもおかしくはない。これに答えたのは、高耶ではなかった。
「そう思って、今朝までかかって資料室を漁ったけど、なかったんだよね〜」
それは、入場チケットの半券を持つ蓮次郎だった。
「おっさん……姿隠さねえの?」
「ちゃんと入場したもんね〜。堂々とウロウロできるよ」
「姿隠してる人らにメシとか買わんといかんのじゃね?」
「……なるほど……俊哉君暇かな?」
「今それを言うってことは、俺に買ってこいと?」
「よくわかったねえ! はい。これお金」
にこやかに蓮次郎は俊哉へと札を手渡した。思わず受け取って確認し、俊哉は目を細める。
「待て……学祭の屋台に一万円出すなや。それも三枚……新札……ご祝儀?」
「おつりはあげるよ?」
嬉しいよねと首を傾げる蓮次郎。しかし、俊哉は騙されない。
「何人分かによるだろ!」
「そんなの分かんな〜い」
「おっさんが言うセリフじゃねえんだわ……はあ……グループごとに聞くかあ……」
後ろ頭を掻きながらも、そう言って先ず姿を隠している神楽部隊の方へと向かっていった。文句を言いながらも断らないのが俊哉だ。
それを蓮次郎は満足げに見守る。
「あの子、めちゃくちゃ目が良くなってるんじゃない? 神楽部隊は特に姿隠しの術、熟練のが多いし。あれ、気配薄くしてるよね?」
俊哉の様子を見ていて、その変化に気付いたらしい。
「……どうも、寿園に習ったらしくて……」
「え? あの姫様の所の座敷童子?」
「はい……」
「あ〜、高耶君のマネージャーならって張り切ったとか?」
「……その辺は知りません……」
「あははっ」
「……」
寿園は熱狂的な高耶ファン。表情にも態度にも出にくいが、執着ストーカー気味な所がある。だからこそ、高耶のマネージャーをするならばと、あまり人前にも出ない寿園が自ら俊哉に手解きをしたらしい。
「あれは……やっぱり、養子は無理でも、どこかの家門に入れたほうがよさそうだね。連盟の登録もしないと」
「……やはりですか……」
「すごい才能だよ。どうする? うちでもいいけど」
「……いえ……秘伝に入れます」
「そう。うん。まあ、それが一番かな〜。うちに入れたら他から文句出そうだしね。登録は明日にでもお願い。あと、優希ちゃんもそろそろ考えないといけないよ。神子登録はされたけど、能力的にもすごいことになってるんでしょ?」
「はい」
「連盟としては良いことだけどね。優秀な人材は大歓迎だ。君や家族から引き離すことはないから、ご両親にも話しておいて」
「分かりました……」
「うん」
能力を持つ者には、相応の責任がある。それを理解させ、突発的な事故が起きたり、力が暴走した時に守ってくれるのが連盟だ。
しかし、同時にその名簿に名を連ねた時、危険視される者ということになる。常人とは違うのだという証明であり、自覚することでもあるのだ。登録の際には、能力を確認するため、否が応でも自覚することになる。
高耶は一族の者として当たり前だった。だが、優希や俊哉は違う。いつか、人とは違うことを寂しいと思うかもしれない。辛いと思うことがあるかもしれないのだ。
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