441 やはり可愛いは強い
講堂はすごい人のようだ。
さすがに優希達の学芸会のような大画面は外に用意出来ない。しかし、学内に小さな連絡用のテレビ画面は所々にあるため、学食や教室などでそこに映して見せることはできる。
講堂内にも電子板ではなくスクリーンは用意できるので、そこに映して大きく見せることは可能だった。
『これより! 学園祭恒例のファッションショーを行います!!』
「「「「「おおぉぉぉぉっ!!」」」」」
生徒達は少し遠慮気味に壁に張り付く感じで配置。一般や協賛を得ている人たちは、舞台やキャットウォークに高い場所に席が用意されていた。
投票は学生達とは別で、一般や来賓の人たちのものがメインだ。学生達での投票は人気投票ということになり、これは明日の最後に発表となっている。
『では! 早速始めていきましょう! なお、発表順は一学年からクラス順となっております! 先ずはキッズモデルから!』
被服の方でも実績のある高校ということで、全てのクラスに将来デザイナーや服飾関係の仕事を見据えている者がいる。作業に関わって良い人数に制限があり、極端に少ないクラスには、多いクラスから出向という形でそのクラス所属になって作業をしてもらうらしい。
とはいえ、今年はほとんどその偏りはなかったというわけだ。
偏りがあったのは、モデルの方。高学年になるほど、モデル経験者達が嫌がり、見つからないらしい。そこで、一年や二年から多くモデルを募るということらしい。一般人には、キツイのだろう。ただでさえ多い学園の者達だけではなく、一般の来場者にも見られるのだから。そうしたことに慣れた者でなければ厳しい。
キッズモデルは、体格などから小学一、二年生までと決まっているので、毎年ということはない。個人の成長具合など分からないので、来年の約束も出来ないというわけだ。
「ああっ。ユウキちゃんっ。なんて可愛いのっ。来年もお願いしたいっ。けど、このまま成長しないでなんて言えなぃぃぃぃっ」
「ユウキ、大きくなるよ?」
「うんっ。うんっ。ごめんね。お姉ちゃん達、ユウキちゃんが大きくなるのも楽しみっ」
「えへへ」
「「「かわいぃぃぃっ」」」
賑やかだ。同じようなことになっている所は二、三あるようだが、優希は別格らしい。人懐っこいということもあるのだろう。知らない自分より大きなお兄さんやお姉さん相手に物怖じしない優希だからこそ、ここまで好かれているのだ。
「あっ、トウジお兄ちゃん!」
「優希ちゃん。大丈夫? お姉さん達怖くない?」
「「「ちょっと!!」」」
「だいじょうぶ! やさしいよ!」
「「「ユウキちゃんっ〜」」」
「そう……なら良かった」
統二はかなり引いている。クラスメイトのこんな様子は、普段見られないのだろう。こんな人たちだったのかと再認識したようだ。
「兄さんも俊哉さんも、忙しいのにありがとう」
「いや。統二こそ、生徒会に呼ばれて忙しそうじゃないか」
「あ、うん。二葉のせいで目を付けられたみたい」
「おいっ。俺のせいじゃねえよ!」
生徒会の二葉知り合いのお姉さんが副会長で、そこから目を付けられたらしい。
「まあ、適当にやるよ」
「統二って、結構いい性格してるよな。俺は悪くないと思う」
「え? ありがとうございます」
俊哉の言葉に、統二は素直に礼を言っていた。嬉しそうだ。
「あっ、次が出番よ! ユウキちゃん!」
「はあい。お兄ちゃん! 先にいってるね!」
「ああ。転ばないようにな」
「うん!」
高耶の方も親子コーデでスタンバイはできている。優希が先に出てアピールしてから出ることになっていた。親子コーデをしたクラスは倍のアピールタイムがあるということだ。
「今年は親子コーデ、多いですね」
「そうなのか?」
「はい。いつもは二組か三組です。やっぱり倍の時間がかかりますからね。人も」
「あははっ。やる気すごかったからなあ」
「それです……なんだか、今年はすごいやる気で……多分、兄さんのせいですよ?」
「俺の?」
そんな話をしている内に、高耶も出る番になる。そして、舞台に出た高耶は、嬉しそうに駆け寄ってきた優希と手を繋ぎ、ランウェイを歩く。
舞台から長く伸ばしたそこを歩けば、多くの者の目は釘付けだ。けれど、驚愕というものではなく、優希が楽しそうにしている様子からとても微笑ましげに見えるらしい。
ポーズを決めてからゆっくりと舞台に戻っていく。そして、最後に優希をふわりと笑って抱き上げて観客に笑顔を見せ、優希は可愛らしく手を振った。
それだけで悲鳴のような歓声が上がり、優希に手を振り返す者が続出した。高耶の笑みに悩殺された者も多いが、可愛いさの勝利だったようだ。
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