439 二百で一人前!
しっかりと証拠映像も音声も確保した妖精も戻って来た。
《リツトきゅん! この証拠はわたしに任せてくれる?》
「え? あ、はい。お願いしても?」
《もちろんよ! それから〜、わたしと契約してくれない? 女王様からは許可をいただいているの!》
「え? あ、いいの?」
戸惑いの視線を高耶に一度向け、高耶の前に座っている妖精女王に、その両方ともが一度ずつ頷くのを確認し、リツトの視線はその妖精に戻ってきた。これが最終確認だ。
《寧ろお願いっ! そうしたら、わたしが物理的、精神的、社会的な負担からリツトきゅんを守ってみせるわっ!》
「え……物理……精神……?」
戸惑う律音に声をかけたのは、楽譜の確認をしていた高耶だ。
「律音。任せればいい。女王の人選に間違いはない」
《ええ。高耶さんの期待には最大限に応えたい。出来ることなら、誰よりも頼られたい。これは夫も同じですもの。高耶さんが大切にしている方達の役に立てることほど楽しっ、嬉しいことはありませんわ》
影からいつでも手助けしたいのを今まで我慢してきたのだと、言いたいようだ。
「女王……ほどほどにお願いします」
《確約できませんわ》
「……もう少し呼ぶ頻度を上げますので……」
《……仕方ありませんわね》
何とか譲歩してもらえたようだと、高耶はほっとしながら律音に伝える。
「……その妖精は、こう……影の護衛、いや、影のマネージャーのようだと思っていい」
《影のマネージャーっ!! そうよ! そう! 普段は姿を見せないマネージャーだと思ってっ! スケジュール管理もしてみせるわ!》
「マネージャー……本当に……?」
この確認は高耶にだ。助けて欲しいという感じではない。律音の目の前には、お願いだと手を祈りの形に組んで見つめるお姉さんな妖精がいる。
「受ければいい。一般的な式よりも人の常識がわかっているし、知識をしっかりと継いで共有しているから、色々と気になった事を教えてもくれるはずだ」
《何でも聞いて! これでも三百は生きてるからね!》
「え……さんびゃく……?」
《うん! 妖精族は、二百で一人前! いわゆる成人なの!》
「二百で……」
目を丸くする律音。そこで俊哉が問いかける。
「その成人して、何か変わることとかあるのか?」
答えたのは女王だ。
《分かりやすい変化は、見た目の大きさですわね。人と同じ大きさになれるとうことでしょう》
「ん? じゃあ、その前は?」
《ふふふっ。分かりますでしょう? 妖精と言えば手のひらサイズですわ》
「おおっ! ファンタジー!!」
妖精らしいサイズを想像し、俊哉は興奮する。本人達から実際にそうだと教えられるのだ。興奮するのもわかる。
そして、律音は決意する。
「その……では、お願いします!」
《もちろんよ! お墓に入って生まれ変わるまで見届けるからねっ!》
「え?」
「今なんかすごいこと言った!?」
律音はポカンとし、俊哉は分かりやすく動揺してツッコむ。
「高耶!」
そして、高耶に答えを求めた。
「ん〜、あ〜……本当だそうだ」
少し嫌そうにも見える表情で答える高耶を見て、女王が笑う。
《ふふふっ。本当は、生まれ変わってもずっとと思っていますのよ? ですが、生まれ変わると人格は環境によって変化しますでしょう? それで失望するのが怖いのですわ……》
「あ〜……そりゃあ、嫌だな」
「女王達は、人をずっと観察してきたからな……」
姿を見せたり契約はしなくても、気に入った者を見守ることはあった。その中で、特に気に入って生まれ変わってもとずっと見守っていたものがあったらしい。しかし、結果は散々なものだった。
《清廉潔白とまでは言いませんが、尊敬できる人格の持ち主を惚れ抜いて見守っていても、生まれ変わった後、試練を乗り越えられずにあっさり折れてしまった者があったのです。それを見ていられなかったことがありまして》
「それは……マジでお気の毒様……生まれ変わるのにも時間かかるんだろ? ようやく生まれ変わったって喜んで見てたらって時の失望……いや、マジで最悪じゃん……」
《わかってくださるとは。中々に想像力豊かでいらっしゃる》
「俺? そりゃあもうっ。ドラゴンとか座敷童子とか見ちゃうとなぁっ」
《高耶さんのお陰ですのね》
「だなっ。あえて高耶のせいではなく、お陰と言うぞ」
《まあっ。ふふふっ》
「……」
これは、気に入られたなと高耶は俊哉を呆れたように見た。相変わらずのコミュ力だ。
そんな会話をしていれば、律音の方も契約の準備ができたらしい。
《あっ、ちょっとだけ待って! 汗を拭きたいわ!》
「え、あ、僕も……おでこを合わせるんだもんねっ」
二人揃って恥ずかしそうに拭き拭きとするのは、なんだか微笑ましかった。
そして、契約は成った。
「これからよろしく。えっと……ユン姉って呼んでいい?」
《うんうんっ。姉ちゃんとかお姉ちゃんでもいいからね!》
「マネージャーにそれはちょっと……」
《っ、そうよね! ふふふっ。いつでも呼んで!!》
「はいっ!」
こうして、律音は、最強に頼りになるマネージャーを手に入れた。
ここから音一族のアイドルになった子達に、妖精のマネージャーがそれぞれつくようになり、大騒ぎになるのだが、それを高耶が知る由もなかった。
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