438 心強いファン
いよいよ文化祭の日がやって来た。
二日間の日程で、ファッションショーは一日目、ライブは二日目の昼過ぎからとなっている。ライブの方は、他の団体のものもあり、律音達と高耶の出るライブは一番最後となる。文化祭の外部からのゲスト出演のような位置だ。
どうやら律音達をほとんどの学生が知っているようなので、盛り下がるということはなさそうだ。
「師匠に歩き方を教わってよかったです! 文化祭後も気兼ねなく学校生活を送れそうです!」
「それは良かった……が、その姿も見せるんだろう……大丈夫なのか?」
律音は現在のもっさりした根暗ないつもの姿から、舞台で変身して見せるらしい。他のメンバーもだ。
「しっかり嫌われて来ましたし、大丈夫だと思います! 言質は取りました!」
これに、部屋に運ばれた音響器具の使い方のチェックをしていた俊哉が問いかける。
「どんな?」
「『キモいんだよ!』って言ってきた人には、『なら、近づかないで……』と!」
「うわあ。他は?」
「『声かけてくんな!』と言われたのには『分かりました……絶対に』と言いましたね! 相手も面白がって、周りにそう言ったよな! 的な確認もしていたので!」
「マジかっ。やべえじゃん。無視できるじゃん!」
「有り難いですよね〜」
「あははっ」
律音も結構いい性格をしているようだ。だが、平穏な学校生活を送るには必要かもしれない。
「……きちんと無視する理由は言ってからにしろよ?」
「はい! イメージは大事ですからね!」
「理由もなく無視したり避けたりしたら、そりゃあ、イメージ悪いもんなっ! ボイスレコーダーとか仕込めばよかったんじゃね?」
「はっ! しまったぁぁぁ」
しっかりとした証拠になるものがあった方がもっと安心できる。不名誉な噂も出ないだろう。
頭を抱える律音を見かねて高耶が確認する。
「それ、教室でやったんだよな?」
「はい……」
「一年前とかじゃないな?」
「はい……大体、一、二週前くらいです……」
「なら……女王、いけるだろうか」
部屋の隅へ声を掛けると、妖精女王がふわりと現れ、重さを感じさせることなく机に腰掛ける。
《その子が音の一族の子ね。歌も聞いたわ。ほら、出ていらっしゃい》
《はわわっ。り、リツトくん!!》
「え……よ、妖精……」
可愛らしいお姉さんの姿をした妖精が、律音の前に現れ、頬を染める。
《わ、わたし! リツトきゅんのファンです! やばいっ……尊いっ!!》
「え、と……あ、ありがとうございます?」
《いやんっ。可愛いっ!!》
「お姉さんの方がかわいいけど……どうも……?」
《うわんっ。天使ぃぃぃっ》
「ふふふっ」
《はっ! 永久保存んんんっ!》
律音は完全に面白くなって笑っていた。
「やべえ姉さんだな。それに、忍者じゃないっ」
「推し活に命かけてるのが一部居るんだ」
《引きこもりになるので困るのよ。けど、隠れて忍術は修めているわよ? 推しを愛でるために》
「ああ〜、潜むんだ?」
《ええ。寧ろ、こう言う子達の方が隠密行動が上手いわね》
「命かけてたらなあ」
推しを愛でるためにと命をかける。やる気が違うだろう。上達の速度も違いそうだ。
「で? なんで高耶はこの姉さんを呼んだん?」
「ああ……アレだ」
「アレ……なんか宝石が光ってる?」
妖精のお姉さんの手にピンク色の石が現れ、それが光っている。しばらくして、光がおさまると、淡い光を再び発して、先ほどの律音とのやり取りが映像と声が確認できた。
「……え? まさか、記録できるのか?」
「アレで、こっちの知識とか増やしてきたんだよ。特別な力らしくて」
《万物が記憶したものを取り出すことができるのよ。それを全て集めた記録保管用の館もあるわ》
「図書館みたいな?」
《ええ》
個々で記録してきたものも、飽きたり、仲間と共有したいものは、そこに納めることになっている。大図書館のようになっているらしい。
《最近のお気に入りは、霧矢Jr.と高耶さんの丘の上のステージでの共演ね。土地神への奉納演奏の》
「なにそれ。俺知らねえっ」
《約束された屋敷がそろそろ本格的に建築が始まる頃ですし、無事建ちましたら、また観たいですわね》
「そういえば……」
霧矢修が月子さんの老後の生活のためにもと用意している屋敷。鬼が封じられていたりと問題はあったが、無事にその場所を更地にし、清めも終わる頃らしい。そこは、土地神が最も祝福する土地で、そこに住む者達には様々な恩恵が受けられる。妖精達の中では約束の地と呼んでいるようだ。
「え〜、いいな〜。俺も観たい!」
《よければ、今度お見せしましょうか。やはり、同じように楽しめるのが嬉しいですからね》
「おおっ! よろしくお願いします!!」
《ふふふっ》
どうやら妖精女王にも俊哉は気に入られたようだ。やはり、コミュ力が高すぎる。
「あっ、で? もしかして、あのお姉さんに、証拠映像と音声を押さえてもらうのか!!」
「ああ……」
「え? あ、あの……いいんですか?」
《もちろんよっ! これからもリツトきゅんのためならなんだってするわ!! 早速、行って来るわね!》
「え、あ……いいんでしょうか」
高耶に確認する律音。それに、高耶と妖精女王が同時に答えた。
「良いと思う」
《構いませんわ》
強い味方が加わったということで落ち着いた。
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