436 護るためなら?
優希に今一度確認する。
「優希……優希はあのイモムシさんの声が聞こえるのか?」
「こえみたいにはっきりしてない。けど、そういってるってわかる!」
「これは……なら、優希から、イモムシさんに少し力を抑えてくださいって頼めるか?」
「いいよ!」
頼られたことが嬉しいのか、優希は満面の笑みを浮かべて窓に向かう。
そして、手を組んでお願いごとをするように真剣に祈った。
「あ……」
「空気が変わりましたね……」
明らかに土地神の力が弱まった。
「お兄ちゃん! これくらい? って」
「っ、ああ。よさそうだ。また細かく調整には手を貸しますって言っておいてくれるか?」
「は〜いっ」
また優希が祈るようにすると、すぐに笑みを浮かべて顔を上げた。
「ありがとうだって。はりきりすぎた? って」
「そうか。助かったよ優希」
「っ、うんっ!」
優希のことについては、今夜にでも瑶迦達に相談と心にメモをしておいた。
フィッティングは今日で最後。細かい手直しをして、もう一度試着したら終わりだ。
「優希ちゃん。髪型とかも決めてもいい?」
「うん!」
服装だけでは終わらなかったらしい。服の最終調整中に、髪型も考えるようだ。
「普段はどんな髪型してるの?」
「みつあみとか〜、あみこみしてヘアーバンドみたいにするとか〜、あむときに、リボンをいっしょにあむとか!」
「っ、オシャレさんなのねっ。誰にやってもらうの?」
「お兄ちゃんか、ハクちゃん!」
「お兄……っ、あのお兄さん!?」
優希の髪を解かしながら、驚きの表情が高耶へ向く。
「お兄ちゃんねえ。すごく上手なの!」
「そ、そうなんだぁ。かっこいい上にそんなことまでできるとか……お兄ちゃんいいな〜」
「えへへ。お兄ちゃんねえ。ピアノも上手だし、クマさんもつくれるんだよ! これ! ムクちゃん」
お兄ちゃん自慢が止まらなくなった優希は、近くに置いていた自分のポシェットからぬいぐるみのクマ、ムクを出す。
「うわぁっ。かわいいっ! これも作ってもらったの!?」
「うん。ユウキにって。これで、おしごといってても、さみしくないよって」
「ううっ。なんて良い兄妹なのっ」
「これぞベストカップルよ! 優勝しましょう! そうよ! そっちのお兄さんの方の服! 優希ちゃんに使うリボンと同じものをどこかに付けましょう! 装飾はデザイン画とは関係なく付けて良かったわよね!」
「そうね! いける! いけるわ!」
「装飾はまだ後からでもいけるから、今日は確実なフィッティングよ! そっちは装飾を考えておいて!」
「「「任せて!」」」
なんだかまたやる気が漲っているようだ。
その後、無事に服は完成。とはいえ、まだ装飾は増やすつもりのようだが、後は本番を待つだけとなった。
統二達のクラスは片付けもそこそこで良いため、一緒に帰る。
優希は普通に土地神にバイバイもしていた。おかげで現実を思い出す。
「……優希。瑶迦さんの所で少しお話しようか。視えたり聞こえたりすることについて」
「うん? うん。今日のオヤツ何かなあ」
「もうすぐ夕食だから、おやつは……」
「え……」
「っ……ちょっとにしような」
「うんっ」
学校でお姉さん達にお菓子はちょこちょこ食べさせてもらっていたようだが、家でのオヤツは別らしい。毎日、エリーゼや珀豪が新作のオヤツを用意するので、それが楽しみになっているのだろう。
「あっ、ムクちゃんもあたらしいワザをおぼえたんだよ! はなすのわすれてた!」
「ワザ……」
「うん! タケのクシがね! 木にささるの!」
「……見たいような見たくないような……」
「人にささらないように、きをつけてるんだよ? もっとサッショウリョク? のないぶきをさがしてるの」
「……殺傷力……」
「すげえ言葉出たな。竹串? が木に刺さるとか……間違いなく串刺し案件だな」
俊哉でさえも表情が引き攣っている。
「ムクはどこを目指してるの?」
統二が普通に優希のバッグのポケットから顔を出して入っているムクに問いかける。
《敵はヤルのです!》
「優希ちゃんのさっきの能力? とかあるし、警戒厳重って感じ?」
二葉がそう言えば、ムクは嬉しそうに答える。
《その通り! 有象無象にはヤラせないのよ!》
「殺意あるなあ。そりゃあ、殺傷力高いわ。ははっ」
「……笑い事じゃない……」
俊哉は軽く笑い飛ばすが、高耶の気は重くなるばかりだ。
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