434 今までと違う
今までの学校とは、雰囲気が違うと感じる者は少なかった。けれど、分かる者には分かる変化だ。
「なあ、秘伝……なんか今日……皆んな機嫌良くないか?」
「ん〜? あ〜、ここの土地神様が正常に戻られたからねえ」
「……は?」
統二と二葉は、空き教室での作業をしていた。本当は高耶が来る時間には戻っているはずだったのだが、高耶とお知り合いになりたい相田をここに引き溜めるための工作のため、時間がかかっていたのだ。
「よし。ここまでいけば、女子達でも大丈夫だね。二葉。教室に行こうっ。兄さんと優希ちゃんがもう来てるっ」
「あ、ああ……じゃあ。おーい! 委員長! ここ、あと簡単なのだけだから」
「ありがとう。助かったわ。秘伝くんは本当に武術とかやってる人なのね」
「大人しい見た目だし、そんなに力があるように思えなかったんだけど、すごく意外。本当に頼りになるわ。ありがとう!」
「う、うん……褒められたのかな?」
「じゃね?」
運動系に力を入れている者も居るが、力仕事となると頼りに出来る者は少なかった。
「悪いなあ、秘伝……俺、指やると怒られるから……」
「俺も、この前怪我したばっかだからあんま手伝えなくて……悪い」
そう言って部屋を出て行こうとする統二に声を掛けるのは、運動部の男子生徒。
「いいよ。突き指したり怪我して大会出れなくなったらマズいでしょ。それから、怪我、癖になるやつもあるから気をつけて」
「ありがとな」
「すまん」
「いいって。また何かあったら言って」
「おう」
手を張り合って統二は二葉と部屋を出た。しばらく教室に向かって歩きながら、二葉は考えていた。
「なあ。やっぱ、今日なんかおかしいわ。それが土地神様のせいか?」
「うん。吹き虫も普通くらいの数になってるし、陰に居た妖も明らかに減ってる」
「こんな変わるんだな……」
「今までが異常だったんだよ。兄さんが言ってた。ここが普通の学校だったら、自殺者とか逮捕者が出てたって」
「うげっ」
進学校の、それもかなり特殊な校風の学校だ。教育方針から、安易に何かを決めてかかるような者はとても少なかった。一人で抱え込むことは多いが、自主性を重んじるためのことで、他人から追い詰められるというよりは、自分で勝手に思い詰める方が多い。
「いじめみたいなのもあったみたいだけど、集団でってのはあまりなかった。いじめられている方も、冷めた感じで勉強とか、他の事しか眼中にないって子が多かったみたいだね」
統二はそうしたことを調べてもいた。深刻な事態はないと確認していたのだ。そんな話を聞いて、二葉は複雑な心境だった。
「ああ……お前みたいなやつな……」
「ん?」
「いや……」
なんでもないと首を横に振る。統二に嫌がらせをしようとしていた少し前の二葉からすると、確かにと思うことだったのだ。
「だから、吹き虫集めるのも結構大変だったんだよね〜。クラス全員から無視されるとか、できないから」
「……」
「本来なら全員にシカトされてるような状況でも、この学校だと半分くらいはバカなことしてるな〜って冷静に見られるし、一部は間違ってるって普通に声上げる人種だし。まあ、それも抑圧されてたみたいだけど……」
そう言って目を向けたとある教室では、今まさにイジメっ子が断罪されていた。今まで声を上げられなかった者達が、この土地の雰囲気に触発されて、抑えていた想いをぶちまけているようだ。
それでも大きな騒ぎにならず、解決していくのは、関わらないようにしていた者達が、冷静に諭しているから。
「そう言われれば……相田が今日は騒がなかったな……」
いつもは高耶が来るとなると、絶対にウザ絡みして来た相田は、今日は大人しくしていた。
「多分、僕たちに兄さんをひょろひょろのオタクだろとか言ったのを冷静に思い出してるんじゃない? それなのに関わろうとした自分が恥ずかしくなってると見た」
「ははっ。マジか。自業自得〜。あれだけ近寄るなって皆んなにも言われていたしな〜。あ〜、冷静になると恥ずいやつ分かる〜」
「相田さんって、けっこう格好付けてる所あったし、相当恥ずかしいんじゃないかな。帰る頃には、委員長にも頭下げそう」
「え? マジで?」
そこまで考えて、統二は少し不安になった。
「うん。これ、多分兄さんの神気の影響もあるんじゃないかな……上手く調整出来てない気がする。今頃、兄さんも気付いてるかな」
「へえ。何かまずいのか?」
「うん。神聖化しすぎ?」
「浄化し過ぎるってこと?」
「そう……文化祭の、この陽気でバグってる? って言うの? 基準がブレてそう」
「なるほど……」
楽しい雰囲気というか、通常ではない非日常感がある今。神気や土地神の影響が強く出ているのか弱いのかという基準が分かりにくい。今を通常、基準とされたらおかしいだろう。
「早く兄さんに確認しないと。まだ今日一日なら土地神様の影響も調整が効くと思うから」
「よし。急ぐぞ!」
「ちょっ、廊下は走っちゃダメだよ!」
マズいと思いながらも焦りがないのは、やはりおかしいと統二は感じていた。細かな調整は必要なようだ。
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