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秘伝賜ります  作者: 紫南
433/449

433 学生らしさとは?

今週末の文化祭のための準備が本格的に始まっているらしく、廊下や教室の片隅やロッカーの上などに様々な荷物が置かれているようだ。


しかし、統二のクラスにはそんな様子がなかった。


「この時期、荷物で教室が狭くなるんですよね。それがすっごく嫌で」

「なんか、これ後で片付けるのかと思うと、始まる前から憂鬱になるんだよな〜」

「けど、ここは大丈夫なんだ?」


俊哉が高耶と優希の衣装のフィッティング中に、小物を作っている学生達へ話しかけていた。今日、この場には統二と二葉も居ない。別の場所で作業中だ。


「ふっふっふっ。当たったんですよ!」

「当たった?」

「場所取りの抽選で五クラスだけは、空き教室を使えるんです」

「ん? じゃあ、用意とかもう出来るんだ?」

「はい! 授業があっても準備できるんで、毎日片付けることもなく、すっごく楽です!」


学園祭が週末にあるとはいえ、それまでは授業がある。それも進学校だ。きっちり授業内容は詰め込まれている。よって、毎日放課後に準備していても、次の日の授業に邪魔にならないようにある程度片付けなくてはならない。


それが、抽選に当たった五クラスだけは、気にせずに作業できるというわけだ。その空き教室を会場として使っても良いし、ただの荷物置き場として使用してもいい。好きに使って良いというわけだ。


「金曜日の午後から授業がないので、普通はそこで教室を改造するんです。で、土曜日に間に合わせるので、最終下校時間ギリギリまでかかるんですけどね」

「この学校だと、そういう時間厳守にするのも勉強の内って感じなんじゃねえの?」

「その通りです! それがうちはほぼ免除なんで、気持ち的にもかなり楽ですよ」

「うわ〜、周りから羨ましがられるだろ」

「恨めしそうな目で見ていきますよ。ほら」

「あ〜……」


廊下から教室を見れば、空き教室の抽選に当たったクラスだというのは一目瞭然らしい。作業も空き教室の方でできるし、廊下に荷物も出していない。それでバレるというわけだ。


「荷物置き場として割り振ればいいのに」

「お兄さん。甘いですよ。この学校は社会の、人生の苦さも学ぶ場所なんです。平等じゃなくて、優遇されている人達に対してどう思うか、そこを試されてるんですよ」

「うわ〜……いや、嫌いじゃねえよ? 俺的には皆んなで仲良く平等にってのは絶対無理があると思うしさ。挫折も成功体験も知らずに育つの、どうかと思うし」

「分かります。お手てつないで走るとか、最近は見ませんけど、どうしてそうなるって思いますもん。平等って、ここで? って」

「ある程度学生の内に叩かれて、自分の限界とか見極めた方が、後が楽だと思うんだよな。試すって大人になってからはキツいだろうし」

「失敗できないところで失敗したら事ですもんね〜」

「でもそれを責められるんでしょ? 大人達がその試す場を奪って来たのにね。平等ですよ〜って言い聞かせられて来たのに、いきなり社会に放り出されたらそんな甘い事あるかっ! って無茶振りされるんでしょ?」

「「「理不尽〜」」」


ここはどこだと思ってしまうほど、しみじみと言う学生達。フィッティング用の場所から出て来た高耶は微妙な顔をした。


「……進学校ってのは、これが普通なのか……?」


会話の内容が重い。そして、喋りながらも手を動かしている。普通の高校生ならば、お菓子でも摘んでいるイメージだった高耶としては、顔を顰めたくなった。


「「「きゃぁぁぁぁ」」」

「っ、ステキっ」

「うわぁ〜、これはすごいわ」

「え? ヤバくない? これだとやっぱ、コンセプトに合わなくない? この服、一般人に着こなせる?」

「「「ないわ〜」」」

「いや、もうコレで行くしかないって! 大丈夫。コンセプト賞は逃しても、間違いなく優勝だよ!」

「顔でな」

「体でしょ」

「全部だよ!」

「「「それなっ」」」

「……」


これは高校生のイメージに正しい会話だと高耶は少しほっとした。内容は酷いが気にしない。


「オッケーです! お兄様っ! すぐに着替えてください! 他の奴らに見せられない!!」

「あ、ああ……」


高耶の周りには、毎回、作業中の大きな布や人壁を作ったりして、やたら隠そうとするなと思っていたが、どうやら他のクラスの者に見られないようにするためらしいと今更ながらに気付く。


そこに優希が赤のラインのある可愛らしい服で出て来た。


「うわ〜、おにいちゃん! かっこいい! 赤いのお揃い!」

「ん? ああ。そうだな。優希もよく似合ってる。だが、そのスカート短くないか?」

「これ、ズボンだよ?」

「そうなのか……」


スカートに見えるがズボンらしい。とてもよく広がっており、可愛らしい。


「お兄さん。この年齢の子は足を出しても大丈夫なんですよ! パンツは見えないように、けど見えそうという変態心をくすぐるラインの見極めは難しいんですけどね!」

「変態心はくすぐってはダメだと思うが……」


変態を釣りたいんだろうか。それは困る。


「あははっ。そこはギリを! もしかして自分は変態なのか!? って自分を見つめ直す機会を与えると申しますか……自分でも気づかない自分を釣り上げるような所を目指しました!」

「……ダメだろ……」

「ふっ。衝撃を与えてこそ! 人の心は動くのです! 三日は悶々とすればいい。ふふふっ」

「……この子、大丈夫か?」


恍惚とした表情で笑う女子生徒。彼女が優希の服の作成者だ。デザイナーを目指しているらしい。だが、さすがに気になった。


「大丈夫です……服が絡まなければ、普段は落ち着いてるんで。変人なのはもう私たちも分かってますし」

「そうそう。天才と何とかは紙一重って言いますしね。それだと思って見守ってます」

「誰かお守りはついた方が良いとは思いますけどね。私らはごめんなんで」

「引き取り手募集中です」

「学園祭でスカウトにくる会社の人達にもこれは伝えないとと思ってますから」

「一応、委員長が取扱説明書は用意してますよ。十部くらい」

「そ、そうか……」


やはり変わった学校なのかもしれない。


しかし、こんなやり取りが頻発するのを感じて、それが土地神の影響だと察する。生徒達に余裕があるように感じられたのだ。






読んでくださりありがとうございます◎

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