428 ひと段落
一番大きな穢れを纏っていた神からその穢れがなくなったことで、音は格段に聴こえやすくなったようだ。
「っ、すごい……なんか、壁というか、建物がなくなったくらいの変化……」
律音がこの変化に一番感動していた。家の中からしていた音がその家がなくなり、外でそのまま聞こえるという状態くらいの違いなのだ。
「それだけ穢れとは厄介なのです。ですから、我々は敏感にそれを察知し、他の術者の方にお願いする必要があるのですよ」
「はいっ。この聴こえ方の違いは、覚えておいた方がいいのですねっ」
「その通りです。あなた方も良いですね?」
「「「「「はいっ!」」」」」
神楽部隊にとっては、とても得難い経験となったようだ。あっては欲しくないことだが、もし次があれば分かるようにと感覚を忘れないように気をつけるらしい。
高耶は過去を視ながら、この場の調整をしていく。その前に、取り込まれた動物達の姿をした穢れたものたちは、苦戦しているのを見兼ねて最終的に高耶が蹴り砕いた。
やられたと言う認識をしたことで、取り込まれていた者達も死を受け入れる。常盤や清晶がさらに清め、天柳の浄化の炎で消えていった。
「やはり、高坊は別格やなあ」
「閉鎖的なのがダメなんだって良く分かるよね〜」
「そうだなあ。得意なのや血による優位性ってのは別にしても、戦闘能力とか知識とかは共有して磨いていくべきかもしれん」
「うむ。守るだけでは弱体化するだけよ……」
「それ、わかってたんなら早く提案しようぜ、おじい」
大人達は今回のことで色々と考えるものが増えたようだ。
「あっ、帰ってきたっ」
「忍者っ!!」
「忍者だっ!」
「やべえっ。なんか死闘を繰り広げましたって感じがっ……」
「「「っ、かっこいいっ」」」
鬼達を隔離していた妖精達と一部の術者たちが戻ってきた。
「え? あれ? あの人……橘の?」
忍者服を着こなし、足跡もなく蓮次郎に駆け寄っていく者がいた。目元しか見えないが、その忍者は妖精ではなく橘の術者の一人のようだ。
その人は片膝をついて蓮次郎や焔泉達に報告する。
「報告します! 全ての鬼の退治、完了いたしました!」
「あ、うん……え? その格好どうしたの?」
「いただきました!」
戸惑う蓮次郎に対して、門下の者は誇らしげだった。
「そ、そうなの……とってもすごい戦いをして来た後って感じの汚れ具合だけど……」
「訓練に参加してきました! 免許皆伝はいただけませんでしたが……っ、必ずや、いつか! はっ、そうです! 当主! 我々に、秘伝家への出入りをお許しください!」
「いや、まあ……これからは家門の垣根はある程度取っ払おうと……」
「っ、ありがとうございます!! 立派な一人前の忍者になってみせます!!」
「……秘伝家って、忍者道場だった……?」
そうだっけと蓮次郎達は混乱する。妖精達と共闘していた半数以上の術者達が、彼と同じように忍者の姿をして妖精達と笑い合っている。
それらを見たこちらに残っている若い子達がコソコソと話す。
「あ〜、でも、秘伝家って暗殺者育てられるって聞いたかも……」
「それはやばいだろ」
「え? 忍者って同じじゃね?」
「……系統同じかも……」
「じゃあできるな。忍者道場」
「いやいや。秘伝家の人たち首横に振ってる」
「ん? 『それできるの御当主だけですっ!』だって」
手伝いに入っている秘伝の者達が必死で否定する。
「あ〜、あの人やばいよな。火も水も効かなかったのを蹴りで真っ二つだもん」
「あれ忍術?」
「暗殺者術だろ」
「いや、さすがに秘伝の……」
「めっちゃ首横に振ってる」
「出来ないんだ?」
「あ、三角だって」
「できる人もいると……いや、でも首傾げてる……」
「あの威力だと無理ってことなんじゃ……」
「それっぽい。頷いてるわ」
「やっぱ御当主がすごいんだな」
「「「だな〜」」」
倒さなくてはならないものがなくなったため、一気に気が楽になったようだ。そうした会話も増えていた。
「で? あと何すればいいんだ?」
「御当主次第じゃ?」
「かもな。なんか視てそうだし」
「じゃあ、ちょい休憩かな。確認してくる」
「はーい」
「よろー」
結局高耶や首領で場の調整の算段をつけていくことになり、少し休憩になっていた。だが、お陰で家門を越えた交流ができたようだ。
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