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秘伝賜ります  作者: 紫南
427/448

427 やりきれないもの

胃がどこにあるか分からない以上、口から出させるならば異物がありそうなところの下を狙うべきだろう。


神に申し訳ないと思いつつも、高耶は集中して突きを放った。



グギャァグウッ!!



聞いたこともない悲鳴が出ていた。



ゴフッ!ゴッ!ゴブフッ!



酷いえずきが何度か続き、黒い塊が飛び出てきた。


「おっ! 上手くいったなあ!」


イスティアが良くやったと手を叩く。土地神が身を捩っているのは気にならないらしい。恐らく痛がっている。


「イスっ、おじいちゃん。治癒をお願いします」

「おお。いいぞ〜」


土地神はそれを受けてパクりとも動かなくなる。


「寝たか」

《気絶したんだと思う》

《それよりも見たか!? 目が合ったぞ! 円なのが! 赤だったがなあっ》

《……可愛い……かも……》


未だにこの話題を引き摺っていたようだ。とはいえ、問題のものは出てきたはずだ。


《で? これ、なに?》

《人……だのお》


肌に染みのように穢れが見て取れるが、綺麗な顔をした少年だ。


《……気配が……あの少女に似ています》

「少女?」


常盤がじっとその少年を見つめながら問いかけに答える。


《薫という少女です》

「っ……」

《ほお。確かに》


それは、鬼渡であるということだ。イスティアが近づいていく。そして、少年を見下ろす位置に来て頷く。


「へえ……お、かろうじて息はあるな……高耶。こいつも浄化はできそうか?」

「あ、はい。常盤」

《はい。土地神の方もすぐに》


常盤が土地神を先ず浄化すると、雰囲気が穏やかなものになり、神気も感じるようになった。正常な状態に戻ったようだ。意識はなさそうだが、穢れで弱っていたはずなので仕方がない。


そちらは、高耶が聖域を創り、土地神の回復を促す。


「うぐっ……っ」


少年の方は、穢れが中々浄化できず、苦しむ声が聞こえた。


「手加減せずに続けろ。呻いているくらいなら大丈夫だ」

《わかりました》


常盤は優しい。特に子どもには甘くなる。だから、子どもが苦しむ声を上げると浄化の力を咄嗟に弱めてしまっていたらしい。しかし、それでは苦しみを長引かせることになる。イスティアの言葉で、常盤はぐっと奥歯を噛んで続けることを了承した。


「心配すんな。この穢れの量で呻くだけなら優しいもんだ。さすがは、高耶の式だな。中途半端な奴の浄化なら、のたうち回ってるだろうよ」

《っ……はい》


痛々しいほど、肌が黒ずんでいる少年。その穢れの色が、段々と確実に薄くなっていく。


これならば大丈夫だろうと高耶はそちらを任せ、一人過去を確認していた。この少年が現れる所を起点にして探る。


見えたのは、鬼が捕えた子どもや動物を取り込んでいる情景。それを止めようと少年が立ち向かっていくが、返り討ちにあい、食われようとする。そこを、土地神は助けようとしたのだろう。自身の体の中に食われようとする少年だけでなく、気を失っている子どもや動物達も取り込むことで、避難させたようだ。


守ろうというする神の意思が感じられたので、これは間違いない。


「何か見えたか?」

「はい……土地神は、その子や恐らく行方不明になった子ども達を保護するために、呑み込んだようです」

「ありゃ。なら、まさに神隠しだなあ。で? その他にも呑み込んだのは?」

「……そこを神職の者達に見られたようです……攻撃を受け、怨みを募らせた土地神のそれに……耐えられなかったのでしょう……」

「あ〜……なるほどな……」


悪しきものに食べられたと思ったのはある意味仕方がないのかもしれない。鬼達は姿を消しており、人を呑み込んだ神だけが目に入れば勘違いするの分かる。


「それで余計に堕ちたか」

「そうですね。守るべき土地に住む子を死なせてしまったというのが、土地神には耐えられなかったのかと……」

「それで穢れに染まり、中で唯一生き延びたこいつも取り込まれたと……なんとも気の毒な……」


誤解を生んでしまったのもそうだが、やりきれないものだ。


「はい……」


この神を癒せるだろうか。それを高耶は考える。だが、先ずはと伊調達を呼ぶ。


「伊調さん! 今ならばもう音が聞こえるはずです。完成させてください」

「わかりました。お手伝いくださいますか」

「もちろんです」


土地の音へと全力で集中した。これにより神を慰め、目を覚ましてもらわなくてはならない。






読んでくださりありがとうございます◎

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