420 戦闘開始
達喜達は少し呆れたようにソレを見ていた。
「この発想はねえわ……」
「まさにドラム型洗濯機。私はあれを見るのが好きだ」
「え……九童老……それマジ……?」
「うむ。最新のものは、中々静かにもなっているからな」
「……やべえ、ここに来て新たな一面が……」
この会話だけでも、なんだか安心して良い状況なのが伝わって来る。
「うわ〜、確実に剥がれてるね」
「水で音も上手く遮断しとるなあ。見た目がほんに、洗濯機やわ……」
「どうやってやるかって、一瞬でも悩んだのがバカらしくなるね……」
巻きついている怨念のようなものは、水の勢いに削ぎ落とされ、それが端に向かう間に浄化されていく。
「そうのんびりもしてられんようだぞ。ほれ、地獄の門が開きよるわ」
虎徹が目を向けたのは、土地神の下。睦美が目を凝らして見る。
「浄化できなかったもの……?」
水流で剥がれ落ちた怨念のようなもの。それが完全に浄化されずに数滴だけ下に落ちていた。そこに霊穴のような穴が開いたのだ。
「何か出て来ますえっ!」
桂花が注意するように鋭く声を上げた。そして、達喜が確信を持って口にする。
「出てきたぞ。鬼だ」
「っ、前に見た感じと違うわ……」
「確かに。なんか黒いね……」
以前、鬼を見ている焔泉と蓮次郎は、その見た目に慄いた。
黒い体。それも巨体だ。顔は見えない。何やら黒いモヤのようなものが覆っていた。それが穴からよじ登るようにして現れる。
「二体……三体……まだ居るな……」
九童老は、それを感じ取っていた。
「夢で見た鬼は最大でも五体だったが……」
「七は感じておる」
「ちっ、やっぱりか……見た目が同じだったもんだから、確信持てなかったんだよな……悪ぃ」
「仕方あるまい。そこまで万能であれば、夢咲はここには居らん」
「あ〜、まあ、そうだな。そこまでだと怖いわ」
どこぞかに完全に隠れてしまうか、力を失うよう全力を尽くして一族は離散しただろう。
「未来が視えるというのは、良いことばかりではない。それは夢咲が一番分かっておるだろう」
「おう……まあ、けど、こういう危機的な状況は正確に視たいと思っちまうけどな」
「ままならぬことが人の世だ」
「ここで実感したくなかったわ……」
達喜達は、話をしながらも作戦通り、取り囲んで行く。
「手筈通り、一体ずつや! 橘の!」
「分かってる!」
橘家の者達が、一体を残して向かって来ている他の鬼を結界で閉じ込める。高耶から教えられた複数人で張る強力なものだ。
「いけそうだ。どれ。こっちの結界はやはり……ダメだねえ」
確認は必要だと、蓮次郎は橘家の持っていた強力な結界を残した一体に仕掛けてみたが、鬼が強靭なその腕を振るうと砕けてしまった。
「高耶君に教えてもらっておいて良かったよ……これは知らなかったら絶望してたわ」
「ほんなら、始めるで!」
鬼の対処が始まった。
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