042 家族って良いものです
2018. 10. 20
リビングに連れてこられた高耶は、そこで母に包帯を巻かれていた。そんな高耶の周りには、人型のままの珀豪や清晶、優希と父がいた。
「まったく、なんでこんな怪我ができるのよ!」
「……」
先ほどから母はぶつぶつと説教をし続けている。ただし、目の前でではなく、背中の手当てをしながらなので後ろからだ。
「おにぃちゃん、いたくない?」
「そんなには……だから、大丈夫だ」
優希は目を潤ませながら気遣ってくれている。
まだ十にも満たない子どもに、爛れたような傷はあまりにも衝撃だったようだ。これは、怖くて眠れなくなったのではないかと思う。
「ほんとうに?」
「ああ……だから、寝ておいで。天柳」
《はい、主様》
天柳がタイミング良く戻ってきたのを感じた高耶は、彼女に優希を頼むことにした。
「……てんちゃん?」
《ええ。そうよ、優希》
天柳も人型で現れたので、優希は驚いた顔をしていた。けれど、優しく微笑むその表情は慈愛に満ちており、天孤の姿の時と雰囲気は同じだと気づいたのだろう。
《もう日もまたいでいるわ。さぁ、傍にいますから、寝ましょうね》
「うん……おにぃちゃん……」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい……」
天柳に連れられて部屋へ戻っていく優希を見送り、高耶は肩の力を抜く。丁度、治療も終わったらしい。
背中に、呆れたような雰囲気を感じる。
「はぁ……高耶、今までもこうだったの?」
「こうって……怪我のことか?」
「そうよ。何をやってたのかは、聞いても分からないかもしれないから聞かないけど、こんなことが何度もあったなら、もっと早く知りたかったわ……」
母が鎮痛な面持ちを見せていることは、声から察せられた。恐らく、死んだ父のことを思い出したのだろう。
どう答えたら良いものかと迷う高耶。目が合った父も、困ったような顔をしていた。二人が身を案じてくれていることはわかっている。
「そんなに頻繁に怪我はしてない。今回はたまたま、結構な強敵だったから」
「強敵って……ううん。いいわ。わかってる。危ない仕事なのね……」
「……ごめん……」
理解しようとしてくれているらしい。けれど、心情的には難しいのだろう。
「陰陽師って、戦いに身を置く仕事なの? 簡単にお祓いするだけとかじゃないの?」
「そういうのが一般的だけど、強力なのを祓うのは、やっぱり戦うことになるから」
「今回がそれ?」
「そんな感じ。本来だったら、封印するしかない相手で、でも何とか倒せた」
本当に、倒せたのが奇跡だと思えるくらい骨が折れた。もう二度とやりたくないと思えるくらいには大変だったといえる。
「そう……あんまり危ないこと、しちゃダメよ」
「努力する」
もう少し鍛えないとなと久し振りに後悔した。
「話もまとまったみたいだね。寝ようか」
父が手を叩いて区切りをつける。それに苦笑しながら、母を振り返り、同じように苦笑する母を見る。
「そうね。明日は休みなのかしら?」
「休講だから。昼まで寝る」
「そうしなさい。ちゃんと養生するのよ」
言われて頷く。とはいえ、昼から今夜のことについての事後処理に出かけるつもりなので、そうそうゆっくりもできないのだが、それを今話すとまた説教が再開されそうなので言わないでおく。
だか、そんなことは、今まで静かに聞くだけに徹していた父にはお見通しだったらしい。
「出かけるなら、あまり遅くならないうちに帰ってくるんだよ? 病院に行くなら付き添うけど?」
「……夕飯までには帰れるようにします……それと、病院は不要です」
「そうかい? どうして不要なのかを聞くのは、明日の夕食の時にしようかな」
「……はい……」
おっとりしているようで、この父は結構鋭い。こんな時、母の説教よりも厄介かもしれないと気づかされる。
部屋へ向かう途中、振り向いた父に言われた。
「困らせる気はないんだよ? けど、今日思ったんだ。僕は君の今の父親だからね。家族の代表として、色々知っておきたいんだよ。大事な大事な息子のことだからね。おやすみ」
「……おやすみなさい……」
部屋に入って、ベッドに腰掛ける。そして、照れ臭くなって頭を抱えた。
「参ったな……」
《うむ、主には良い家族ができたようだな》
《良い薬だと思う》
「お前ら……面白がってんじゃねぇよ」
とはいえ、本気で心配してくれる家族達を、これ以上悲しませることだけはしたくないと思った高耶だった。
読んでくださりありがとうございます◎
次回、月曜22日0時です。
よろしくお願いします◎