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秘伝賜ります  作者: 紫南
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416 壁になる

いつの間にか、今回の件に関わる予定の者達だけでなく、首領達の家の関係者達の多くが、修行のために集まっていた。


現在は旅館から場所を変え、連盟の特殊な結界の張られた特別訓練場にいる。


《おお〜。こんなに継承できたのは初めてだぞ!》

《いやあ、大放出ですねえ》


先ほどから笑いが止まらんと、ご機嫌な様子で訓練を眺める充雪。その隣には、自分も混ざりたいとそわそわする将也がいた。


《もっと早く気づけば良かったなっ》

《継承者探しに連盟を使うなんて、思いつきませんよ〜》

《はっはっはっ! まあな!》


そう。この際だからと、秘伝で預かっている技を継承できそうなものは全て出そうということになった。


これにより、秘伝家の多くの者達も招集されていた。


秘伝家の者達は、当主のように全ての技を会得出来ているわけではないとはいえ、分家の当主なども一人二つほどは昔のものも会得して継承させることが出来るようになっている。そこは、一族の決まりであり、秘伝の血を引く一族の者としての矜持だ。死ぬ気で会得する。


「こうして見ると、秘伝の人たちって、身体能力は高いんだね」

「それが本来の売りですから」


継承に関わらない秘伝の者達は、体術を基本に訓練している。それを見ていた蓮次郎は感心しているようだ。


「妖とも肉弾戦?」

「ですね。技は鍛えると霊力のような力も乗りやすくなります。あそこまでいけば、妖や霊も殴れますから」

「そういえば、高耶君も霊を蹴り飛ばしてたって?」

「……ええ、まあ……」


その衝撃などで、祓ったり、消滅させたりするのが秘伝家の最も得意とするところだ。一番原始的な祓い方であるが、確実なものでもあった。


「それにしても、こうして見ると……普通の武闘家としてはあの人たちもすごいんじゃない? 文句言ってるところと寝込んでるところしか見てないからそんな風に今まで思わなかったけど」


蓮次郎が目を向けたのは、秀一や、本家筋に連なる者達が訓練しているところだ。


「そうですね……まあ、秘伝家の特性といいますか……それはやはり本家筋の者が強く出るものですから」


本家筋に近しい者達は、特に身体能力が高い者が多く、現代で奥義や秘伝を預かってほしいと言う家からそれを会得して預かってくることができる。


「本来なら、何十年とかかる技の会得にかかる時間が必要ないんです。技の本質など、感覚で覚えやすいと言いますか……そのために、他家や多種の技を覚えて会得することができます」

「はあ……秘伝の特殊能力なんだね? そっか。そうだよね。それこそ、秘伝の技なんて、何十年とかけても会得できないものもあるだろうに、それを、集められるんだもんね……」

「はい。なので、あの人たちくらいになれば、一応、一般的な道場とかが持つ奥義や秘伝は会得して来られます。難しいものや、あまり個人で得意ではない剣術などは、さすがに何日かかかるようですが、不可能ではないです」


秘伝家は多くの武術を会得している。剣、薙刀、棒術、弓術なども全てだ。だが、一番力を入れるのが素手での格闘技。よって、剣は苦手だとか、弓術はちょっとと言う者も多い。それなりに得意なもの、不得意なものはある。当然、それが技の会得にも影響してくるものだ。


「へえ。じゃあ、高耶君の苦手なのは?」

「特に……感じたことはないですね?」

「なるほど。それが当主としての素質や器なのかもね〜。それは嫉妬されるわ」

「……そうかもしれません……」


今や真面目に訓練に取り組んでいるように見える秀一。その周りの者達も、以前とは表情も違っていた。


中でも、自主練をする秀一達からは離れた場所で門下の者を指導している勇一の成長は顕著で、指導する様子も堂に入ったものだった。


「ウチでもあるよ。でも、そういう嫉妬とかを越えないと、一皮剥けないというか、成長しないからね。当主って、壁でないといけないから」

「壁……ですか」

「うん。いつまでも大きく、立ちはだかってやらないといけないんだよ。周りの壁をどんどん越えてくる子達を見守りながらも、自分だけは越えられないように。嫉妬が、憧れになるように頑張らないといけないんだ」

「倒されてはいけないということですか?」

「そう。倒そうって気概は残して欲しいけど、それは難しいからね。まあ、敵じゃないし。それに、最後の砦的なものでなくてはならないからね」

「そう……ですね」


どうしてもダメなら後は任せられるという頼れる存在でなくてはならない。


「難しいよね〜。心は折ってはいけないけど、立ちはだかって鍛えるってさ〜。もう、だから当主は面倒だよ」

「そこに行き着くんですか?」

「うん。ほら、もう一枚壁欲しいじゃない? 裏でお茶してたいって言うか。だから、たまに隠居したくなるんだよ〜。お気楽隠居。よくない? ずっと怠けて弱くなるのはよくないけど、いざって時だけ呼んでもらって、後ろから応援だけしてたいっていうの?」

「……何となくわかります……気は楽そうですね」


近くで聞こえたらしい、他の首領達までうんうんと頷いていた。


「でしょ!? あ〜、早くウチの子、奥義覚えないかな……あっ、そうだよ! 高耶くん! ウチの奥義教えるから、ウチの子に継承してよ!」

「……いや、経由させないでください……」

「だって! 教えるの大変なんだよ!」

「わかりますけど……そこは信頼関係とか、師弟関係の大事な所ですから」

「えぇぇぇ〜。いいじゃん。ならさあ、一応、覚えてもらって、教え方教えてよ。それならよくない?」

「……考えておきます……」

「よし! やる気出てきたぁぁぁ!」

「……なんで……?」

「え? だってこれで壁一枚できるのが保障されたようなもんでしょ。いやあ、気が楽になったな〜」


そう言って、蓮次郎は訓練に戻って行った。そして、高耶は他の首領達に肩を掴まれる。


「……え、あの……っ」

「「「「「ウチもよろしく」」」」」

「……け、検討します……」


古い家ほど、そういった悩みはあるようだ。これにより秘伝家の価値が更に上がった。




読んでくださりありがとうございます◎

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