414 秘伝の真価
首領達だけでなく、神楽部隊の者達も、連日何人かに分けて現場に通っている。そして、毎日のように会議となったのだが、だいぶん疲れも見え始めたことで、せっかくならばとあの旅館にやって来ていた。
「保養地にしたのは正解やったなあ」
「温泉で癒されて、美味しい料理まで……そして、家に帰らなくても布団がある……っ、最高だね!」
買い取った旅館のことを、すっかり忘れていたのだ。従業員に瑶迦の所から派遣された精霊達が来ており、それにも慣れた様子。女将達も嬉しそうだった。
「まあまあ。会議もよろしいですが、食事はしっかり取っていただいて、外の空気を吸ってください」
以前よりも女将達はとても生き生きとしていた。朗らかに笑う笑顔も、とても自然だ。どこか張り詰めていたものがなくなったように見える。
「助かるわ。なんや、女将も前よりうんと元気そうやない?」
「ふふふっ。そうなのです。なんだか体がとても軽くて。まだまだ現役で頑張れますわ」
「それはええ事やなあ」
そんな様子を見て、高耶は山の方へと顔を向ける。どうやら、土地神の状態も良さそうなのだ。
そこに、もはや半分ここに住んでいるらしいキルティスとイスティアがやって来た。
「やっほー、高耶ちゃん。はい! お小遣い! この前は出先だったし、渡せなかったのよね!」
「よしよし。高耶、じいちゃんからもな」
「……ありがとうございます……っ、じいちゃん、おばあちゃん……」
「いいのよぉ」
「おうおう。いつでもおいで」
「……はい」
上機嫌な二人に、高耶はいつも通り困惑中。そんな様子を見ていた焔泉と蓮次郎は、微笑ましげに見ていた。だが、ツッコむことは忘れない。
「ここ、実家かや。知らんかったわ」
「おじいちゃんとおばあちゃんの家なんだね。うんうん。立派なお宅だね」
心も少しばかり癒されたところで、本題に入る。
「ここの土地神様の結界のようなものを作り出されば鬼もなんとかなるかな」
「戦うゆうことを、そもそも避けるゆうことやね?」
「眠らせるということですね?」
焔泉、蓮次郎、伊調が今日はこの場に居る。他の者達は通常の仕事もあるので、報告だけになることもある。
「でも、そんな結界……難しいなあ。すぐには無理だよ」
「せやろなあ」
「考え方を変えましょう。鬼が壊せない結界とはどんな物でしょうか」
「なるほど」
「確かに、夢咲はああ言いましたが、今のままの対策ではダメなのですからね……」
そこで、蓮次郎は、高耶を横目で見た。
「秘伝……」
「っ……?」
蓮次郎は、姿勢を正して高耶の方をまっすぐに見る。
「高耶君。結界に関するとっておきの秘伝はありますか?」
「え……あ、はい。古いのが二、三……それも、複数人で組むものが」
「っ、それです! 橘家にある言い伝えで、かつて、一つの一族が一丸となり、荒ぶる神を封じ込める強力な結界を張ったとっ!」
「多分、それです。橘家の傍流の家系の技だったかと……」
「傍流の……? ああ。なるほど……こちらに伝わらなかったのは、そういうことですか」
「……ええ……そう聞いています……」
「だから高耶君も言わなかったんだね?」
「はい……」
本家ではなく、そんな強力な結界を作り上げたという傍流の家。今よりももっと、本家と分家の関係は複雑だった。血が途切れても、本家にその知識を渡さなかったのは、分家の意地だろう。
「それを、こちらに伝えてもらえるかい?」
「条件があります……」
「なるほど。いいよ。何でもしよう。その家の墓の前で一族総出で土下座でもしようじゃないか」
「いえ、そこまでは……」
秘伝がその技を預かることになった時、本家がこれを欲したらという条件があったのだ。
「なら、何だい?」
「ただ……『ただ、本家だ分家だと区別せず、技を磨き、技を生み出す喜びを共にできるように願う』と『その証に、墓の傍に橘を植えて欲しい』と」
「……っ、ははっ。そんなことも出来ないほど、ウチの先祖は頑固だったとっ。はあ……約束しよう! さっそく墓の場所を教えてくれるかい?」
「先に技ではなく?」
「もちろんだよ。条件を果たしてからでないとね」
「っ、分かりました」
蓮次郎の行動は早かった。
これがきっかけとなり、それぞれの首領達が、古く伝わる秘伝の確認を始めた。
読んでくださりありがとうございます◎