412 推し活は偉大
あの顔合わせから三日が過ぎた。少し面倒に思っていたあの集まりも、無事に済んだのだと思うと肩の力が抜ける。
妖精族の忍術ショーというか、サーカスというか、それは凄かった。室内公演は初めてだと言いながら、空間を弄って、天井を上げに上げ、室内も広くして、全員がアリーナ席での観賞。
神職の年配の方々も、ポックリ逝ってしまわないかと心配になるくらいに大興奮していた。歌って踊っているステージの時には、タオルをブンブン回していた。
「あれは、はしゃぎ過ぎたよな……」
そう思い出しながら呟けば、キーボードを用意していた湊律音が声をかけてくる。
「先週末の事ですか? 凄かったみたいですね」
統二の高校で、文化祭があと十日ほどとなっている今日。音合わせをすることになっていたのだ。
「聞いたのか?」
「それそれっ。俺観たかった! マジ羨ましくね?」
「はい! 妖精族のディナーショーとかっ、見てみたかったです!」
今日も当然のようについて来た俊哉だ。どうやら、当日の機材の設置なども手伝うつもりらしく、それらの確認を意外にも真面目にしていた。とはいえ、俊哉は結構色々できる。裏方をやらせれば安心できると昔から言われていた。そんな姿を見て、高耶は眉を寄せる。
「俊哉……いつの間に機材を触れるようになったんだ?」
「ん? ほら、高耶の知り合いの、房田音響でバイトして色々教えてもらったんだよ」
「バイト……?」
「そう。修さんのコンサートにも関わってるって聞いてさあ、俺も手伝うんだ〜」
「……」
最近は、俊哉が裏方に常に居る気がしていたが、どうやら本気らしい。
「だからさあ、音響の仕事を知った俺としては、妖精さん達のショーが気になってんのよ」
「あ、ああ……エルラントさん達が、交渉してたから、その内、映像で見えるようになるんじゃないか? そんな話をしていたはずだ……」
「マジで!?」
「本当ですか!?」
俊哉と律音が身を乗り出して確認してくる。それに、高耶はゆっくりと頷いた。
「そう聞いた……」
「よっしゃ!」
「うわぁ、楽しみです! あ、明伎と流希にも教えてあげないとっ」
一緒に演奏する他校生。音一族関係の二人も妖精族のショーを知っているようだ。
「けど、神社の人たちもすげえ楽しんだんだろ? よく受け入れられたよな」
「かなり最初は驚かせた……というか、怯えさせたかもしれないが、最後は本当に楽しそうだった」
「そりゃあ、夢の世界的なやつだろ。けど、見えるようになるといいな」
「それなんだが……」
あの後、翌日には、視えるようになったという者達から連絡が入ったのだ。急激な変化だった。そこまでの変化は連盟も想定していなかった。だが、どうやら原因は妖精族らしい。
「どうやら、土地神達が妖精族のショーを観たことがあったらしくて、宮司達が興奮気味にあの日あったことを神様に報告していたら……」
「え…….まさか……」
「あ〜、アレですね。同担とか」
「それだ。神達も妖精族のファンで、暇があれば、妖精族のショーについて話し合っている内に、視える力が強化されたらしい」
「……やっちまったな、高耶……」
「普通じゃないですよ……御当主……」
「……」
俺のせいではないと言いたい高耶だが、原因はやはり高耶で間違いない。
「まあ、視えるようになったんだから、良いだろ」
高耶の感想はこれに尽きる。しかし、俊哉と律音は複雑そうな顔をしていた。
「長年の悩みが、推し活で解決なんて、平和的過ぎるだろ」
「経済効果や救いだけでなく、歪み合ってきた業界が歩み寄るきっかけにもなるなんて……僕らも考えを改めます」
アイドルをやる心構えや覚悟のようなものが更に強固になったかもしれない。
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