411 忍術公演?
唖然としている者はもちろん居たが、呆れている者はいなかった。寧ろ感心している者は多いようで、この二人(?)をどうしようかと思って困っているのは高耶だけだった。
そんな高耶の心中を察する余裕がある者はいない。首領やキルティス達からしても未知の存在だ。興奮しているらしい。
収拾が付かなくなりそうな中、姿を現した充雪が、床に転がされている妖精王の傍らに膝をついた。
《おい。そろそろ大丈夫か?》
《む? おっ、充雪殿か!》
《久しいなあ、妖精王よ。やはり、おヌシらの空間転移は良い! 忍術との相性も最高だなっ!》
《うむうむっ! 充雪殿とお館様を見込んでよかった! お陰で我の忍術もほぼ完成したのだからなっ! はっはっはっ!》
「……」
陽気な忍者だ。仕方のない奴だと、高耶が更に呆れていれば、後ろから服の裾を引っ張られた。蓮次郎だった。
「高耶くん。もしかして、あの妖精王に、忍術教えたの? 秘伝の……」
「……はい。俺も若かったと言いますか……その……一時期、暗殺術ばっかり教えられて、うんざりしていた時に、コレどうすんだと悩んだ時期がありまして……」
「あ〜……まあ、そうだよね。引き継ぐにも、暗殺術を引き継ぐって……困りそうだね……」
「はい……で、少しでも誰かに伝えられたら気持ち的にも楽になるかなと……そんな時に出会ったのが妖精王だったんです」
高耶だって多感な少年期を過ごしている。仕事人間な所はその頃からあったが、それとこれとは別だ。
全ての秘術を充雪から教え込まれ、それを抱えている状態というのは、何か内から弾けてしまいそうな、そんな焦りのようなものを感じていた。
そもそも、秘伝家の役割りは、次代に繋げなかったものを繋ぐこと。記録として秘伝家当主の中に残すが、その大元は繋ぐべき場所に置いておくもの。
いわば、写本を持っているだけの存在であるはずなのだ。しかし、暗殺術や忍術などは、現代の情勢からは必要とされないもの。大元の所でも、引き継ぐことを止めるものだ。あえて失伝させるものである。とはいえ、多くの家では完全に失うことは惜しいと思う。その技はその家の歴史であり、結果なのだから当然と言えば当然だ。
そこで頼られるのが秘伝だ。原本を預かってもらえる。そうして、厄介払いと言うか、結果的に家から失伝したということにした。
困るのが、そんな原本を抱えている高耶だ。行き先のないものを秘伝家当主はずっと抱えていかなくてはならない。それを納得するには、当時の高耶は若かった。
「素質もあって、持て余していた忍術を、じいさんと一緒になって教え込んだらあんなことに……」
「あ、うん。コスチュームが着慣れてるって言うか……こう、着せられてる感もないほど自然だよね。本物っぽい」
うんうんと首領達だけでなく、蓮次郎の感想が聞こえたこの部屋のほぼ全員が頷いた。中学生に入りたての一年生が、学生服にすぐに馴染まないのと同じで、ああしたコスチュームは、着ると浮いた感じになるのだが、女王も含めてとても自然に、馴染んで見えた。
「クオリティも最高! 女王のドレスも素敵!」
「本当に素敵ですわっ」
《あら。ありがとう》
キルティスと瑶迦が女性らしく交流を始めていた。
「元々、妖精王は忍者好きで……それを土地神達にも披露したりして……世界中で大人気だったんです」
「え? あの妖精王様が?」
「ここ最近は、世界ツアーしてますよ」
「……世界ツアー……土地神様達向けの?」
「はい。あの妖精王だけではなくて……女王も一緒に妖精族の精鋭を連れて、こう……サーカス団の世界公演みたいな?」
「……想像できたけど、妖精って……」
聞こえていた焔泉達も微妙な顔をしている。想像すると確かに、どう反応していいか困る。
《ふふふっ。そこでなのだけれど、お食事会なのでしょう? 良かったら、ここで公演させてもらっても良いかしら?》
そんな女王の提案に、一拍遅れて全員が興奮気味に手を上げて賛成した。
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