409 もはや否定する力もなく
エルラント達の紹介を受け、年齢やどのような存在かを知った神職の者たちは、信じられないと、ここで断じることができなくなっていた。
「これまでのことを知ってしまっては……」
「ええ……信じないわけにはいきませんよね……」
「魔女様とは……」
「土地神様……神が……神とは……」
胸中は穏やかではない。大混乱中でもある。
「魔術師と吸血鬼ですか……いえ、嘘だとは思っていません。その存在を知らずに生きてきたというのが……悔しいと申しますか……」
「言いたいことは分かります……こう……人よりも世界を知っているつもりで、まだまだ世界の半分も知らなかったのではないかと……」
「ああ、それはありますね。それと、信じていたはずなのに、本当は信じていなかったのだと……自覚させられました」
「そうですねえ……神はおられるのだと……そう口にしていただけだったのだと、思い知らされたようで……」
反省もあるようだ。
「ふふふっ。世界とは、思っている以上に大きなものですわ」
「そうねえ。私もまだまだ、知らない事あるものね」
「だなあ。明らかにならないものが、未だにあるってのは、楽しいもんだぜ」
「全てを知るというのは、神でも難しいかもしれませんね」
そんな話をエルラント達がすれば、なるほどと頷き、盛んに質問が飛び交う。彼らはとても話し上手だ。そして、彼らより年上のものはいない。キルティス達からすれば、初老もとうに過ぎた者達も、子どものようなものだった。
頑固な者達にも、まだまだ若いわねと笑い、諭していくのが上手かった。
「さあ、桂花さん。次は天使と悪魔だったわよね? 高耶さん。お願いね」
「あ、はい……」
そうして、天使の瑠璃、悪魔の玻璃、天使と悪魔の子として瑪瑙を紹介した。
「う、美しいっ……」
「……はあ……人に対して美しいなどと……本当に思えるものなのですね……」
「ああ、確かに……これは美しいと言わざるを得ない……」
「翼が……なんとも神秘的だ……純白というのは……輝くのですね……」
瑠璃の美しさに、目が潰れそうになっていた。そした、玻璃が挨拶すれば、その声に魅了される。それが魅了の力だと説明も入った。
「うっ、魅了……魅了とは……はあ……分かっていてもこれは……」
「魅了という状態を実際に経験できるとは……いやあ、貴重な体験ですっ」
言葉として知っていても、実際それを体験することなどほぼないだろう。強制的に惹きつけられるその不思議な感覚に、ちょっと恍惚としている者もいるようだ。
「あんな可愛い子になら、なんでもしたくなりますねっ!」
「あの樹精の果泉ちゃんとはまた違った可愛らしさだっ」
瑪瑙にもしっかり魅了されたらしい。早々にまた首領達の方で、抱っこ争奪戦が始まっていた。
そして、最後に、妖精を喚ぶことになったのだが、その前に瑤迦達にも教えていなかったと気付く事態になった。
「高耶さん? どうして言わなかったのです?」
「……知っているものと……」
これに、イスティアも呆れた声を出す。
「いや、知らねえよ。妖精なんて、俺らでも見た事ねえぞ? エル、お前は?」
「ないですねえ。だが……もしや、精霊に擬態したりしていないかな」
イスティアやキルティス達よりは、世界を歩き回っているエルラントに話を振れば、そんな問いかけが高耶に向けられる。
「あ、してるかもしれません……」
「やはり……」
エルラントは、その存在を知っていたかもしれないようだ。
「え? 擬態するの? あ、なら、あれかしら……」
「ん? なんだ。覚えあんの?」
イスティアは、何か心当たりのあるらしいキルティスに目を向ける。
「なんか違和感のある子に会ったことがあるのよ。樹精って、性質的にあまりアクティブな子が居ないの。だから、攻撃的な子はいないでしょう? 無視する子はいるけど」
「ああ、確かに。怒り方を知らない子が多いな」
「それはあるね。それで、契約者の感情に左右され過ぎて、問題が起きる事もあるくらいだ」
「そうですわねえ。どちらかといえば、お淑やかな子が多いですものね」
瑤迦の屋敷では、樹精達もかなりいる。度々訪れるようになったエルラント達も、そうした実感はしやすかった。
「で? 擬態した奴がいるって話だったか」
「そうそうっ。やたらと話かけてくる子がいたのよ。けど、契約する? って聞いたら、やめとくって消えちゃったの」
「消えた……ってのも奇妙だな。なるほど。そんじゃあ、高耶。お披露目しろや」
「……はい」
真剣な顔になったイスティアが綺麗な顔を凄んで見せる。これに逆らえるはずはなかった。
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