407 肩の力は抜けましたか?
従業員達が一礼して部屋を出て行った。それを見送ってから桂花は続ける。
『では、これらを踏まえた上で、次にご紹介しますのは、守護霊です』
高耶の前に、ふわりと胡座をかきながら姿を現した充雪と着々する寸前で視えるようになった父、将也が現れる。
更に、焔泉の前や首領の何人かの前にも数人現れていた。
「っ、幽霊!?」
「いや、守護霊と……」
「本当に守護霊が……」
守護霊さえも、その存在をはっきりと認めることがなかった者はいるようだ。
『みなさまの中にも、守護霊が傍にいる方がおります』
「なんとっ」
『守護霊自体が持つ力によって守られてはいますが、それはあくまでも守護霊の力を消費しているに過ぎず、いずれはほとんど見守るだけとなります』
「消費しているならば確かに……なくなりますね」
決して無限ではなく、永続的なものでもない。
『そうして、最後には守護する者を守るためにと、その存在を力に変え、消滅することも多い』
「っ、そんな……」
使える力がないならばと、自分を犠牲にしてでも守りたいと思うのが守護霊だった。
『そうさせないため、こちら側も努力する必要があります。守護霊を理解し、その存在を認めることで、守護霊達は力を補うことができます。リスクはありますが、最も良いのは、視る力を養うこと。その存在が一時でも視ることが出来れば、人は信じられますから』
「……確かに居るのだというのは、見えなくては信じられませんね……」
「見えたとしても、信じなかったくらいですから……」
『そうです。ですから、今日こうして視ていただいているのです』
どれだけ頭の固いもの達でも、今日のこの場でのことで存在しないと否定することができなくなったはずだ。あとは本当に心から視る力を望めるかどうか。
『では、しばらく休憩を取ります。三十分ほどですが、式達や守護霊の方々、従業員の方々とも交流してみてください』
飲み物を運んでくる従業員達。その際に話しかけられて、質問などに答えていく。
珀豪達も人型で喚び、そこに交ざっていく。特に黒艶や天柳は話し上手で、楽しそうだ。
首領達も休憩ということで、表情も和らいでいる。もちろん、肩の力が抜けたというそれだけが理由ではない。
「果泉ちゃん。じいじとこのお菓子を食べんか?」
《食べる! 果泉ね! ハク兄と作ったお菓子持ってきたの! これ、食べてみて?》
「おおっ。なんとも可愛らしい。クマのクッキーか」
《ムクちゃんなの〜》
「ほおほお、ムクちゃんと言うのか」
《うん。ムクちゃんはねえ》
そんな会話で、老年の首領達が果泉を取り合って可愛がっていた。
「あんな顔するんだね……」
「ええ……」
源龍が、高耶の隣でその様子を複雑そうな顔をして見ていた。
「同門の人たちがこれを見たらどう思うかな」
「仰天するがしれませんね」
見たこともない笑顔だ。いつも眉間に皺を寄せているような人達が、デレデレしているのだから、きっと驚く。当主の威厳もあったものではないだろう。
「この後、瑪瑙くんも喚ぶんだよね? あの天使達も……初見せの首領達の心臓が止まらないか心配だよ」
「……そんなにマズいですか?」
「え? 当たり前でしょう。私も初めて見た時はそれはもう驚いたからね。寧ろ、その存在を知っている首領達の方が驚愕すると思うよ。桂花さん達、話してるのかな?」
「……」
瑠璃達の存在を知っているのは、どちらかと言えば、驚かすことが大好きな人たちだ。報告は上がっているはずだが、きちんと認知できているかは謎だ。焔泉や蓮次郎のことだ。さらっと流して意識にあまり引っかからないようにしているかもしれない。
主に、出会うことになって驚くところが見たいからという理由で。
「因みに高耶君。他には隠し玉ないよね?」
「……隠し玉……ですか……」
「……なんでそんな気まずそうな顔するの? え? まだ何か隠し持ってるの!? 嫌だよ? ドッキリがポックリになるような人たちもここには居るからね?」
「いえ、それなら、瑠璃達ので想定済み……」
「高耶君が隠してるくらいだよ? 天使や悪魔は、それなりに存在を知ってるからそこまでじゃないんだよ。問題は、私たちでもまったくの空想上のものだと思っているものだった場合だよ!」
高耶達は、それなりに色々な存在を認知している。普通は空想上のものだと言えるものでも、視えるし、出会っているのだ。早々、それ以上はない。
「……そんなに大したものではないはずです……」
「何隠してるの!?」
「大丈夫です。絶対に。精霊とそう変わりませんから」
「だから何!?」
「よ、妖精とか……」
「……」
源龍は言葉を失くしていた。
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