399 信じているけれど
今より少し前。薫との顔合わせをしている頃だ。出席確認の手紙が、各家に届けられていた。
きちんと宮司達に届けられたその手紙は、最初、ただのダイレクトメールか、嫌がらせの手紙かと思って、捨てようとした。
しかし、なぜか思い留まることになる。その感覚を、宮司達は忘れなかった。
出欠について考え始めた翌日には、特別な連絡網で連絡が来たのだ。そして、一度宮司達で集まることになった。丁度、秋の祭りは終わっていたし、落ち着いた頃だったのも良かった。
「お久しぶりですなあ」
「ああ、お変わりありませんか?」
「いやあ、ここまで出て来たのは本当に久しぶりですわ」
「新幹線など何年振りに乗ったか」
「おおっ、先代様までおいでになられたのですかっ」
そんな久しぶりに会った人たちの挨拶で溢れる中、今回集合をかけた一人の宮司、宝泉孝己が現れた。
「みなさま。この度はお集まりいただきありがとうございます。さっそく、用件に入らせていただきます」
挨拶などは不要。今回の内容を聞けば、嫌でも色々と喋りたくなって時間が取られるだろうという判断の下、さっさと用件を伝えることを選んだ。
「先日、縁あって幻幽会の方々とお会いしました。そこで、何が起きたのかお話しましょう」
そうして、あの日誰に会ったか、そして、神に会ったのだと話をした。
「っ、そのようなことあるはずがっ……」
予想していた通り、反論を口にしたり、隣の者と話し合ったりと混乱を極めた。しかし、嘘など口にしてはいない。そして、一番口にしてはいけない事も口にする者が出はじめた。
『神の姿など、見えるはずがない』
神の存在は信じていると言いながらも、そう口にしたのだ。宝泉孝己は、つい力強く告げていた。
「お静かに! そのあるはずがないという思い込みが、我々から視る力を奪っているのですっ!!」
「「「「「っ……」」」」」
孝己は、突然怒って大声を出したりする性格ではない。だが、神職にあって、声を響かせることは知っている。それが感情も乗ったことで、かなりの大きな声になって、皆を驚かせていた。
静まり返ったことで、孝己も声を落とす。喉がヒリヒリとする気がするが、そんなことに構ってはいられなかった。
「幻幽会の方々が訪ねて来られた理由を、先日改めてお聞きしました……とある神職の者がかつて、神の姿など視えないからと思い込み、視えたものを妖として封じたようなのです……それを土地神だと知らずに……」
「っ、ど、どういうことですかな?」
孝己は、改めて聞いたのだ。顔合わせをする日程を決める折に、資料は役だったかと。そこで聞いた。
「こちらの資料では、その昔、土地を荒らした妖を封じたとなっていた。しかし、実際にその地に封じられていたのは、その地の土地神だったのです……」
「「「「「っ……」」」」」
「記録には、醜悪で、人心を惑わすものとありました。あちらにあった資料なども確認した結果、神であった方を、誤って攻撃し、封じたのだと分かったのです。視えないからと……視えるはずがないからと、そのような考えで、誤った判断をした可能性が高いとわかりました」
「「「「「っ……」」」」」
これを聞いて、まさかと思う者もいるが、比較的若い世代の者達は、それさえも疑うような顔をしていた。
「信じない者もあるようですね。ですが、私は実際に、神のお姿を視ました。そして、御言葉も……その御言葉を、先日、思い出したのですっ」
そう。幻幽会から、神に誤って手を出していたのだと聞いて、あの日の神の言葉を思い出した。
「あの方は、最後に仰いました……『今後は目を閉じることなく、受け入れるべきことを正しく見定めていってくれ』と……あの方は、我々が誤ったことをご存知だったのですっ」
「「「「「っ……」」」」」
この言葉が、懐疑的であった者達も含めて、きちんと確かめねばならないという思いを持たせた。これにより、ほぼ全ての者達が出席を決めたのだ。
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