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秘伝賜ります  作者: 紫南
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388 放置し過ぎた結果

ゴロンゴロンとそれは転がり出てきたように見えた。


「……ん?」

「うわっ、あぶねっ。これ、文鎮じゃね?」


俊哉が身を屈めて、高耶の足下に転がり出て来たものを見る。


青色の鋳物(いもの)で、厚さは一、二センチほどだろうか。複雑な模様が円状に描かれている。直径は十センチほどだ。


「なんかこれ、あれだ。三種の〜何とかの鏡みたいな」

「ああっ、八咫鏡みたいだねっ。アレは、青くはないけど」


雛柏教授もそれを見て頷く。


「扉に立てかけてあったのかしら?」


一緒になって小百合も覗き込むようにして見た。


しかし、微動だにせずにそれを見つめていた高耶は、次に聞こえて来たゴロゴロという音に目を細めた。


「教授、俊哉、下がって」

「ん? おう」

「え? うん」


不思議に思いながらも、高耶の固い声に二人はすぐに下がる。教授はきちんと小百合も後ろに庇うように下げた。何かあるというのは、高耶の声で分かったのだ。


「っ、と、当主……この音……」


勇一が緊張気味にその音に聞き耳を立てる。そして、案内して来た使用人は、はっとして告げた。


「そういえば、夜になると、ここからゴロゴロと音がすると……見回りの者達が言っていました」

「え〜、それ、怖くねえの? 報告しようぜ」

「でも、音がするだけですし?」


使用人は、平然とした顔色で首を傾げるだけ。それは俊哉にすれば、異常に見えた。


「ふふっ。仕方ないんだよ和泉くん。こういう家だもん。不思議な音がするのが寧ろ当たり前みたいな所あるよ」

「心霊現象があるのが当たり前……当たり前になれんの?」

「慣れちゃうんだろうねえ」

「すげえ世界……」


高耶はそんな会話を背中で聞きながら、少しだけ開いた書庫の扉の隙間をじっと見つめる。段々と音が近付いてくる気がする


しかし、それは気だけだったようだ。途中で止まった。


「……はあ……なるほど……おい。お前も動けるんだろ?」

《っ!! ぴゃいっ》

「え!? 文鎮? 鏡? が喋っ、動いた! 亀?」


ぴょこんと、側面から亀のような足と頭、尻尾が生えた。


「平べった〜。けど、亀顔は可愛い。ちょいバランス悪そうだけどっ。足短いんじゃね?」


俊哉が屈み込んでその様を見る。それは足が短いため、動いても数ミリ単位でしか移動出来なさそうだった。


「うわあ〜、付喪神? すごいねっ。可愛いっ」

「まあっ。本当に可愛らしいっ」

《っ、んっむむっ》

「ぷはっ。首も短すぎて見上げれてないっ。なんて残念な生き物なんだっ」


必死で見上げようとして首を伸ばしているが、その首が伸びても二センチほどだ。斜め四十五度も無理そうだった。その残念さが大変可愛い。


案内してきた使用人も、感激している。


「っ、かわっ」


一方、勇一はその不思議な生き物に目を丸くしたまま動かず、高耶は呆れたように額に片手を当てていた。


「はあ……もしかして、こいつと同型のが中にもう何匹か……」


先ほどからゴロゴロ音も聞こえなくなっている。どうなっているのかと高耶は扉を完全に開け放ち、気配のする方へ一歩足を進める。そこに、本の間に挟まって足をばたつかせている亀がいた。


「……」

「ぶはっ、あははっ。ハマってるっ。なにそれ! 転がってきて、曲がりきれずにってこと? マジで残念っ」

「……はあ……」


高耶は、俊哉に笑われてジタバタさえ諦めたそれを本の隙間から抜き取る。手に乗せると、足を引っ込め、顔だけ高耶に向けた。


「泣くな……」

「え? 泣いちゃった? ごめんよ〜」

《ふぎゅ……》


円らな瞳に涙が滲んでいた。それを慰めるように背中(?)を撫で、俊哉に預ける。


そして、もう一匹を同じように発見し、救出すると一度書庫を出た。


廊下に三匹(?)を並べる。


「やべえっ。可愛すぎだろ! ペットにしたいっ!」

「本当だよ! 机の上に居たら、絶対に癒される!」

「文鎮ですわね! 文鎮ですのねっ! 付喪神にするならコレですわっ!」

「くっ、可愛過ぎるっ」


使用人までもメロメロだ。


そこで、高耶はまだ書庫の中にそれらしき者の気配を感じていた。


「はあ……まずコイツらを全部出すのが先か……いや、待てよ……説明書……」


唐突に、説明書を思い出した。それを開くと、目次があった。


「……『快適なペットとの共生』……知ってたのか」


ここを改築した清掃部隊は知っていたようだ。この付喪神達がいることを。


「まさか、この説明書……書庫のことじゃなく……」

「あ、それ内部地図? えらい広そうだけど、この奥は本棚ねえじゃん。コイツらの遊び場? 三分の一くらいあるじゃね?」

「……それだけ居るってことだろ……」

「じゃあ、この書庫、付喪神の棲家ってことじゃねえの?」

「「「……」」」


高耶と使用人、そして、勇一はまさかという思いで書庫の方を見てしまった。その先に、付喪神の楽園がありそうだ。







読んでくださりありがとうございます◎

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