037 色々と予想外な展開で……
2018. 10. 10
高耶の手に握られている刀。それは、青白く光ってはいるが、光ではない。
《……水の刀だと……?》
「『水刃刀』だ。昔と違って、刀を持ち歩ける社会ではないからな」
森や山など、木がある場所では水が比較的集めやすい。
戦いの場はこの山だというのはわかっていた。だから、わざわざ、武器を持ち込む必要はないと見ていたのだ。
もしも、森から出たとしても、この場所で刀を作成し、持ち出せば良いだけの話だ。すぐに水に戻すこともできる。
《はっ、たかが水だろ》
バカにしたように笑いながら、鬼は鎌を構える。その鎌が赤く怪しく光を纏う。
《全て喰らってくれるわ!》
投げられた鎌は大きく迂回して向かってくる。その際、当たった木の幹や枝が急速に枯れる。水分を失っているのだ。
「吸っているのか……」
おそらく、鎌にかすりでもしたら、水分だけでなく血も吸われてしまうだろう。刺されば干からびて死ぬ。その証拠に鬼は狂気に満ちた表情で呟いていた。
《血を! 血を!》
先ほどのように鎖に干渉するのは得策ではないだろう。鬼も同じ手に何度も引っかからないはずだ。ならば、取るべき手段は決まっている。
高耶は飛んでくる鎌に集中する。体を低くし、それに向かって踏み込む。そして『水刃刀』を一閃させた。
少しばかり斜めに起き上がった扇型の青い光の残像が目に焼きついた。
その一瞬後、トスっという音と共に高耶の背後の木の幹に、赤い光を失った鎌の刃だけが刺さっていた。
《……なん……だと……?》
シャリっという音を響かせて地面に伸びたまま落ちる鎖。その先には鎌の柄だけが残っている。
呆然とする鬼を見て好機と感じた高耶は、そのまま鬼へ向かって駆け、剣を振り下ろした。
「はっ」
《くっ》
咄嗟に避けた鬼は左腕を失くす。切り落とされた手は、白い炎に包まれ地面に落ちると同時に燃え尽きた。
「どういうことだ?」
高耶が何かしたわけではない。勝手に発火したのだ。不思議に思って動きを止めると、充雪が説明してくれた。
《鬼は土にさえ還ることも許されない存在だということだ》
「へぇ……便利だな」
鬼の見た目を考えると複雑だが、後の処理を考えなくても良いのは歓迎すべきところだ。
《っ、このっ!! 調子に乗るなぁっ!!》
無くなった左腕。その付け根が痛むのだろう。血は流れてはいないが、そこを押さえてヨロヨロと後ずさった後、鬼は口から黒い炎を吐いた。
「っ、おいおい……っ」
まさか、漫画のように、リアルに人の形をしたものが口から炎を吐くとは思わなかった。
高耶はその異様な光景に身軽にバク転しながら後退する。
その炎は一メートル先にも届いていたのだ。
飛び道具を処理できたと思ったら、今度はこれだ。近付くのは難しくなる。先ほどの一撃で仕留めきれなかったのが悔やまれた。
高耶は苦笑しながら、次の手を考える。
しかし、その時間は鬼にとっても態勢を整えるのには良いものだ。
《はっ、ははっ、人にしてはやりおるわっ。だが、鬼としての力、この程度と見られては困る!》
鬼の体にある紋様が赤く輝いた。鼓動するように点滅し、色が更に鮮やかなものになっていく。
「なんだ?」
一際鮮やかに輝いた紋様が、フワリと鬼の肌から離れる。鬼の頭上へと浮かび上がり、帯状になると、それの端と端がくっ付き、円になる。
ゆっくりと回転し、紋様が呪文のように変化していくのが見えた。
「……これは……」
ここへきて鬼の力が増しているように感じ、高耶は警戒を強める。
敵の攻撃の準備が整うまで待ってやるヒーローというのがいるが、高耶は今そんな状態だった。
別に待ってやっているつもりはない。動けないのだ。正確には、動くべきではないと感じていた。どう対処すべきかと考えるにしても、何が起きるのかを見なくてはどうにもならない。
それが危険な術ならば、途中で止めるのも危険が伴うのだ。だから、高耶はヒーローよろしくそれを見守るしかない。
《ふはっ。鬼が鬼たる所以……それを見せてやろう!》
ピタリと回転を止めたそれは、強く瞬くと鬼を囲むように地面へと瞬間的に焼きつき、鬼へと集束した。
すると、鬼は赤い光に呑まれ、一気に膨れ上がる。
その光が終息した時、そこには二メートルを優に超える赤い肌を持つ『鬼』が立っていたのである。
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