367 信じるか信じないか
2024. 4. 4
那津や時島は、わかりやすく顔を顰める面々を見て、眉根を寄せた。理解されないというのは分からないことでもない。しかし、那津達は神が本当に存在することを知っている。
「信じて欲しいとは言いません。ですが、否定なさることだけはしないでいただきたいのです」
「しかし、こうしたことを子ども達にも強制することは良くありません」
「思想の自由を奪うことになりますよ」
否定的な言葉が次々と出てくる。これに、那津は苛立ちを抑えながら答える。
「では、例えば、皆様は一度も神社にお参りに行ったことがないのですか? 御守りを持つこともしないとか?」
「それは、今関係が……」
「同じ事ですわ。そうですわね……あとは……家を建てる時に、お祓いをお願いしないのですか?」
「ですから、それは関係が……」
「皆さんがそれらをしないと仰るのならば、否定されることを受け入れましょう。ですが、そうでないのなら……何も仰いませんように。神に失礼ですわ」
「っ、だから、神を信じるというのがっ」
声が大きくなる来賓の者達。それを見て、高耶は結界を張った。こちらを注視しなくなるように、人避けの結界の応用だ。
すると、そこにどこからともなく現れた光る鳥が舞い降りてくる。
「なっ、なんだ? なんの演出……」
「演出ではありませんわ。土地神様です」
「……は……?」
祭壇の上に降り立った光る鳥。それは、高耶の張った結界の中に居る者達にしか見えない。
高耶が立ち上がり礼をすると、それに続いて修や那津、時島、杉だけでなく、集まって来ていた教師達も立ち上がって礼をした。
教師達も、打ち合わせの折にその姿を確認していたのだ。よって、この学校の教師達は、これが土地神だと知っていた。
《よい。我も招かれたもの。今日は楽しませてもらおう》
そこで、土地神が来賓の者達へと目を向ける。
《そなたらも、我を信じぬならばそれでよい。だが、子どもらの思いに水を差すようなことはせぬようにな》
「「「っ!?」」」
「CG……ではない……?」
「この声はどこから……っ」
混乱するのも仕方がない。作り物だと断じたいが、聞こえる声は耳からではなく、内から響くように聞こえる。言葉にできない感覚だった。
彼らが理解できない感覚を覚えたまま、会が始まった。
校長の那津が挨拶をし、来賓の者達が数人壇上に上がって言葉を述べる。そして、戻って来ると自然と土地神に頭を下げてから席についた。
信じられないながらも、そうせずにはいられなかったのだろう。その様子を見て、那津達は笑いを堪えていた。
劇が始まる。
先ずは一年生。優希達の演劇だ。
「すごい……」
「これが一年生……」
「劇団に入っている子がいるのか?」
そんな呟きを、教師達はほくそ笑みながら聞く。一年生が終わり、二年生になり、三年生と進んでいく。
「……あんな難しい伴奏が出来る子がこんなに……」
「一年生の子も、すごかったですよね?」
「どうやって練習時間を捻出したんだ……」
始終、感心しきりな様子が窺えた。
そして、昼食休憩に入る。
『ただいまより、昼休憩に入ります。保護者の方々は、この後学年の入れ替えにご協力ください。生徒の方々は、一年生より順に退出をお願いします。次の開始は一時三十分です』
電気が付いたと同時に、アナウンスが流れる。それを聞きながら、来賓の者達は、未だにそこに居る光る鳥に目を向けていた。
読んでくださりありがとうございます◎