355 面倒くさくなった
2024. 1. 11
二度目のお持ち帰り案件に、高耶は申し訳なさそうに瑶迦へと相談したのだが、瑶迦は目をキラキラさせていた。
「まあまあっ、高耶さんったら、いくらでも相談に乗りますわっ。キティとティアを呼びますわねっ。あっ、エルさんもっ」
「……お願いします……」
キティと呼ぶのは最古の魔女キルティス、ティアは稀代の大魔術師であるイスティアのこと。エルさんとは、表では大富豪、本来は大昔から存在する吸血鬼のトップであるエルラントだ。
高耶のためならばと呼びかければ、そんなVIPな存在がすぐに集結する。
それも、二分と掛からなかった。
「高耶ちゃんっ。何? 何? 何か困り事? 高耶ちゃんを困らせるなんてっ。オコだよお」
小柄で可愛いらしい見た目のキルティス。高校生と言っても通るだろう。手を腰に当てて、むっと頬を膨らませる姿は、怒っていても見ている方は和んでしまう。
「落ち着けや。先ずは事情を聞かんとなあ。まあ、無茶苦茶なもんだったら、孫を虐めんなって釘刺しとかんとなあ」
銀髪美青年にしか見えないイスティアは、その顔から出るとは思えないような荒い言葉を吐く。そこに更に整った顔で凄まれては、距離を取りたくなる。
「ティアこそ落ち着きなよ。怖い顔見せないの。高耶君に嫌われるよ?」
「高耶っ、じいちゃんの事嫌いか!?」
「……いいえ」
こういう問いかけは困る。別に嫌いではないが、好きだと言えば、バカみたいに高額なものをプレゼントされたり、なんでもかんでも作ってくれるようになるだろう。なので、一番困る問いかけなのだ。
「ほら、ちょっと間があったよ?」
「高耶ぁっ」
珍しく、すかさずエルラントが楽しそうに煽る。
「だ、大丈夫です。というか、エルラントさんっ。そういう煽りダメですって」
「少しずつ、冗談に慣れてもらおうと思ってるんだよ。最近、よく会うようになって思ったんだ。ほぼ一人で居るから、こいつ冗談が通じないって」
「……」
エルラントの目は笑ってなかった。
「ティアとかキティはシャレにならない力があるから、冗談を冗談として受け止められないのは危険だと思わないかい?」
「……そうですね……」
「けど、二人とも結構イケイケというか……だから、勢いで冗談を冗談と思わずに突っ込んで行きそうで怖いなって……今更だけどね……」
「……なるほど……」
ちょっと遠い所を見ているエルラントに、高耶は心配になる。
「ということだから、え〜、俊哉君だっけ? お友達の」
「……はい……?」
突然、エルラントから俊哉の名が出て目を丸くする。そうして、少しばかり思考停止していれば、エルラントが続けた。
「あの子、コミュニケーション能力高いから、ティア達の面倒見てもらおうと思って。それで、最近の常識教えてもらえないかな」
「……それは……良いかもしれません」
俊哉にぶん投げようと二人で内心ニヤつく。
「決まりだね。さて、一つこちらの悩みを解決できたし、君の方の問題について聞こうかな」
「お願いします」
「あっ、ズルいっ!! 高耶ちゃんっ。私に任せて!」
「コラっ! 俺の事忘れてんじゃねえぞっ」
そうして、山の事についての話を始めた。その後、すぐにでも行こうと言うキルティスとイスティアに引き摺られ、なぜか旅館で一泊することになった。
「……なぜ……」
「考えるだけ無駄じゃないかな」
「……」
常識人のエルラントが居ることと、キルティスとイスティアは二人セットで動いてくれるので、それほどストレスになることはないのは救いだろう。
翌日、意外にも真面目にキルティスとイスティアは山を歩き回り、夕方ごろに戻ってきた。
「ここめちゃくちゃ、特異な土地じゃんっ。この旅館、連盟で買い取ったんだろ!? ここに俺住むわ。そんで研究する!」
「私も私もっ! 土地神もしっかりしてるし、こんな都合が良くて面白い土地ないよっ。だから山崩すのはちょっとだけ待ってっ。具体的にはあと……」
「「千日くらい!」」
「長いよ」
「……」
これはこれでめんどくさくなったなと、高耶とエルラントは揃って遠い所を見てしまった。
読んでくださりありがとうございます◎