350 先ずは信頼を
2023. 12. 7
高耶は週末。焔泉と蓮次郎、伊調も含めた連盟の術者数名を引き連れて山の上の茶屋に向かっていた。中には急遽呼び出した由姫家の双子がいる。
「えっと。高耶兄さま? ボクは何をすればいいの?」
「俺たちが力になれるとは思えないんだけどな……」
上の方の立場の人たちばかりの中に呼び出された津と伶は、不安そうに高耶を挟んで歩いていく。
これに答えたのは、後ろにいる蓮次郎だ。
「特にやる事はないよ? 存在してるだけでOKってやつ」
「「え……?」」
こんな事を言われて、双子がポカンとするのは無理もない。存在しているだけで良いなんて、言われる事など普通ないだろう。
高耶は苦笑して説明した。
「これから会う人たちは、隠れ里の住民だったんだ。一昔前に大陸で差別され排斥された『半魔』でな」
天使や悪魔が人と交わったり、呪いや神との繋がりにより、人の枠から外れてしまった存在を、大陸の方では『半魔』と呼んで排斥していたのだ。
そうして追われ、こちらへ逃げてきた者。こちらでも、集落の中などで外れモノとして追われた者達が集まり、この土地神の加護を得て、隠れ里で静かに暮らしていたのだ。
この事情だけで、伶は納得した。
「あっ。なるほど……それで俺たちが……」
「え? どういうこと?」
津は首を傾げていた。そんな弟へ伶が説明する。
「隠れ里にいたってことは、それだけ警戒心は強い。排斥されるって未だに思ってるんだ。そこで、俺たちだ。俺たちはその人達と同じ、場所と時代によっては『半魔』って呼ばれてたはずだろう?」
「そっか。そうね。雪女の血を引いているものね。そんなボクたちが、平然と高耶兄さま達の仲間って事になってるんだから、大丈夫よって分からせるのね」
由姫家は間違いなく隠れ里の者達からすれば同じ『半魔』の存在だ。
そんな彼らが、分かり合えない、敵にもなる術者達と一緒にいる。それにより、もう逃げる必要はないのだと教えることができるだろうという目論見だ。
高耶に里を取り戻してほしいと願ってはいても、不安なものは不安なはず。里をどうにかした後に、逃げようとするかもしれない。
「もう逃げ隠れする必要はないんだと教えたいんだ。どうしても、術者を前にしているってことで、緊張するみたいだからな。だからお前達が大丈夫だと教えてやってくれ」
「分かりました!」
「任せてよ!」
そうして、山の上の茶屋に着いた。出迎えた者達は、焔泉や蓮次郎を術者の代表達だと聞いて、案の定怯えていた。
今回は、茶屋に住むことになった血も能力も薄れた女達だけでなく、隠れ里の代表だという老女が一緒だった。瑶迦の作った世界に移動していたが、わざわざ出てきたようだ。
「っ、こ、この度はご足労いただき……っ」
緊張で倒れてしまいそうに見えた。隠れ里の者達は、藤や瑶迦とは顔を合わせたが、他はまだだ。警戒心が高いため、ゆっくりと時間をかけて交流していく方針だった。
瑶迦は土地神だ。だから、彼らも特に警戒することはなかった。高耶に声を掛けたのも、高耶から滲み出る神気に無意識の内に惹かれてのことだったのだろうと予想できる。
そこに由姫の双子が歩み出た。背の低い老婆と目を合わせるよう、少し屈んで声をかける。
「おばあさん。心配しなくていいよ。俺たちも同じ『半魔』なんだ」
「ボクら、雪女の血を引いた一族の者なんだよ」
「え……」
呆然と、だが、確かめようとするように双子へと老婆だけでなく茶屋の女性達も目を向ける。
それを受けて、伶と津は力を使う。
「「ほら」」
「っ、雪……?」
チラホラと、細かい雪が降ってきた。
「やっぱり、山だと降らせやすいな」
「時期外れでも特に何か言われないから、気が楽よね〜」
「え……本当に……?」
「「うん」」
雪を止ませて、伶と津は呆然とする老婆へ笑顔を向けた。
「寧ろ、積極的に能力は引き継がせるべきだって考えなんだよ。おばあさんたちは、何とか血が薄まるのを待ってたんでしょう?」
「あ、ああ……そうでなくては、外で生きていけない……」
「それは昔の村とか集落での少数の集団の中で、でしょう? 今は近所付き合いも嫌がる風潮だし、他人にそれほど興味ないよ? 大勢の中でなら、それほど気にしなくても生きていけるんだ」
「まあ、俺たちも自分たちの能力がきちんと制御できるまではあまり外に出なかったけど、逆に言えば、制御できたら別に普通だよ」
「……そう……なのですか……?」
「「うん」」
老婆の肩の力が抜けたように見えた。
焔泉や蓮次郎、高耶達は、双子が老婆達の警戒を解くのを微笑ましげに見つめて待つ。
そんな中、大人達は小声で話はしていた。
「やれ。あの双子がなあ。変わるものだのお」
「外に出るのもビクビクして、手も離さなかった頃が懐かしいねえ」
「お可愛らしかったですねえ。感情が天候に出てわかりやすかったですし」
「おや。伊調も知っておったんか。ああ、奉納か」
「はい。数年ごとに、由姫家の別邸があるお山の社への奉納がありますので」
「勝手に雪降らせちゃうから、土地神様との付き合いが大変なんだってねえ」
「ええ。特に、彼らが幼い頃はほぼ毎日吹雪いていましたから……」
「「あ〜……」」
そんな土地神様との付き合いも大変な所がある。下手に能力が高すぎるのも困りものだ。
「そうすると、ほんに、高坊には感謝やなあ」
「だねえ。能力を制御させるとか、力を知ってる一族の中でも難しいのに、できちゃうんだから」
「由姫家は、あの双子の制御、一度は放置したんやもんなあ」
「ええ。それで別邸の方に。良かったですねえ、御当主がいて」
「ほんになあ」
「本当に」
「……」
そうして、大人達はいつの間にか高耶を褒める会話へとスライドしていく。
高耶には居た堪れない雰囲気になってきたが、この時には、伶と津が老婆や女性達の笑顔を引き出すほどになっていた。
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