342 ほっとされました
2023. 10. 12
額に手を当て、俯いて首を横に振る高耶。
充雪の姿が見えてしまったことで、口を開けたまま固まってしまった槇達をどうしたものかと思案していれば、俊哉が普通に話しかけていた。
「充雪さん、どこに行ってたんです?」
《裏の山を見て回ってたんだよ。神が大挙して押し寄せただろ? それで土地が不安定になってねえかをな》
「あ〜、凄かったらしいな」
《あの焔泉の嬢ちゃんでさえ、この世の終わりかと思ったとか言っておったわい》
「分からんでもない……ぜんぶ視えるんだよんな〜」
これを聞いていた一同は、視えるというのも大変なんだなと改めて認識したようだ。うんと一つ頷いて動き出す。
「幽霊……」
「ちょい透けてる……?」
満も嶺がまじまじと充雪を見つめる。
《おお……こんな見つめられんのも久し振りだわ……っ》
「何を恥ずかしがってんだよ……」
高耶が呆れたような視線を充雪に送る。
《しゃあねえだろっ。こうっ、気分の問題なんだよっ!》
「へえ……」
よく分からんと高耶は眉を寄せるに留めた。
《そんで? 修行すんのか。滝行するか?》
「精神修行より、能力の自覚と制御だから、滝行は今度」
《ちぇっ》
「それと、まだ土地の方は交渉できてねえよ」
《なに!? じゃあ、滝は!?》
「だから、まだダメだ」
《くっ! ちょっと待ってろ! 焔泉の嬢ちゃんと話して来るからなっ!! 滝買ってもらってくるぜ!》
「おう」
もう付き合うのも疲れたと高耶は、適当に流した。部屋を飛ぶように出て行ったのを確認して、高耶はお茶をゆっくりと味わう。
「はあ……」
大きくため息を吐く高耶を見て、俊哉は笑う。
「高耶って、充雪さんをたまに、やんちゃな弟とか息子を見るみたいにあしらうよな」
「何百年と存在してんのに、落ち着きがないのがな……アレを大人と認めていいのかどうかって思っても仕方ないだろ」
「分からんでもない」
同意も得られたので、高耶は落ち着いている。そんな高耶へ、槇が声をかける。
「さっきのは……幽霊なのか?」
そういえば、説明していないなと気づく。
「守護霊ってやつが近いかもな。また、こうやって憑いてる俺からよく離れるけど」
「……悪いのじゃないのはわかったが……大丈夫なのか? その……憑いてるんだよな?」
「ああ。特に影響はない」
「そうか……」
どこから、安心したと言うように息を吐いて納得してくれた。
それから、武雄が昼食の片付けを手伝って来るというので部屋を出て行った。
そして、ゆったりとした時間が戻ってくる。そこで、槇が口を開いた。
「高耶……その……頼みがある」
「できる事なら」
「……説明を……ここが高耶みたいな能力者? の保養所になるって聞いた。今、その代表がここに集まってるってのも……」
「ああ……」
何を言いたいのか、高耶は察していた。だが、あえてこちらから口にはしない。こう言う事は、きちんと本人に言葉にしてもらうことが必要だ。
視えないものを相手にすることが多い高耶達の行動は、信じてもらえないこと、理解されないことも多い。だからこそ、こうしたことはきちんとする必要があるのだ。
槇がゆっくりと言葉にするのを待つ。これを、時島先生と話ていたのだろう。時島先生と目を合わせて頷かれているのも確認する。
「……家族を……親父とお袋をここに呼んだら、説明してもらえるか? 俺には、説明しきれない事も多い。だから……頼む。俺にした説明を、親父達に頼みたい」
真っ直ぐに目を向けられた高耶は、それを受けて頷いた。
「わかった」
「っ、助かるっ。じゃあ、すぐに電話して来てもらう」
スマホを出す槇に、高耶は少し考える。そして、提案した。
「簡単に信じろって言われても難しいだろうから……扉を繋いで迎えに行くか」
「……扉?」
首を傾げる槇に、そういえば、これも槇達には説明してないなと思い出した。
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