334 対応出来る人は集めました
2023. 8. 10
焔泉は面白そうに微笑みながら扉を通ってくる。扉は部屋の中の、襖の一つを使っている。
部屋の中を見まわした焔泉は、次に扉を潜ってきた蓮次郎へ声をかける。
「一人でゆっくりできそうな部屋やない?」
「中々良さそうですね。高耶くん。ここ何人部屋?」
「二人部屋じゃないかと」
「へえ。うん。良いね。他の部屋も見せて欲しいな〜」
「せやねえ。ささっと契約も済ませたいわ〜」
「……」
遊びに来たようなノリの二人を、高耶はついつい胡乱げな目で見てしまう。
それを受けて、焔泉と蓮次郎は目を逸らしながら続ける
「そないな目えせんでも……仕事はやるよって……」
「そうそうっ。先に仕事だよねっ。もうねっ、神具を盗むとか、どんだけ罰当たりな奴らなんだろうねっ」
「……離れの方にお願いします……この後来る清掃部隊に、向かいの部屋の修理の依頼もあるので」
「任せとき!」
「任せて!」
そうして、離れへと清晶が案内して行った。
それを見送ると、そこで電話がかかってきた。刑事である元だ。
『あ、高坊? 後十分くらいで着くんだが』
「随分早かったですね」
『そりゃあな。この辺りって当たり付けてたんでな』
「そうでしたか……では、旅館の入り口で待ってます」
『おう。すまんな。なら、また着いたら連絡するわ』
「はい」
元々、元はこの辺りに神具や仏具を盗む者達が潜伏しているのではないかと、範囲を絞り込んで捜査していたようだ。
すぐに来てもらえるのは有り難い。
そうして電話を切ってしばらくすると、清掃部隊の上役の一人が、扉から飛び出してきた。
「御当主!! 申し訳ありません! 大変遅くなりました!」
「いえ……こちらこそ、急に呼び立てて申し訳ない」
「いえいえっ! 御当主の用命とあらば、何を置いても先にと駆け付けます! 今後もどうぞ、こちらの予定などお気になさらず、ご連絡ください!!」
「そ、そうですか……ありがとうございます……」
「はっ! 何なりとお申し付けください!」
「……はい……」
若干、暑苦しいなと思わなくもないが、まあ関係が良好なのは良いことかと思っておくことにする。
「では、さっそく。こちらの旅館は、連盟で買い上げることが決まっております。おそらく、今回の件が解決すれば、すぐにでも契約に入ると思います。ですので、向かいの部屋の修繕をお願いします」
「はい!」
「それと、奥の離れに、強盗が盗んで来た神具などを隠している場所があったようです。そちらの隠し場所の処理をお願いします」
「なんとっ! それはすぐに確認させていただきます!」
「ええ。清晶が案内します」
《あ、来たんだ。早く行くよ》
「はい! すぐにメンバーを選出いたします!」
そうして、一度扉の向こうに引っ込み、次に何人もの人が飛び出してくる。
《うわ……暑苦しいのがいっぱい……》
「清晶……」
《は〜い。離れに行く奴はこっちね》
「「「「「お願いします!!」」」」」
五名が、清晶に連れられて行った。
「御当主! この扉も我々で見ておきますので、この場はお預けください!」
「頼みます」
そろそろ、元が到着する頃。丁度良いということで、高耶は部屋から出て旅館の入り口へと向かう。
またしばらくすると、元からもう到着するという電話が入った。
入り口で待っていれば、車が横付けされた。
降りてきたのは、元の他に三人の屈強な見た目の男達。全員、高耶の知り合いだ。
「お待たせしました師範!」
「こんには〜!」
「いや〜あ、今日は迅さん居なくてラッキー!」
かなり強面で、黙っていれば、近寄りがたい三人だが、中身はめちゃくちゃフレンドリーだ。
これならば、変に気負う必要もない。
立場がいくら上でも、やはり高耶は若いのだ。やりにくい時はある。だが、彼らなら問題ないだろう。
少しホッとしながら、離れへの案内に立った。
「では、お願いします」
「「「「おうっ」」」」
そんな様子を不思議そうに見ている同級生達へは、あえて目を向けず、高耶は離れへと向かった。
どんな状態になっていたとしても、対応できる人材は集まった。
ざわりとした風の音が聞こえることに、先ほどから気づいてはいる。眠っているはずの土地神や隠れ里を乗っ取ったらしい鬼達を刺激しないことを祈る。
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