328 同級生の今に興味があるらしい
2023. 6. 22
同窓会は、ピアノの余韻と驚きを残しながら始まった。
「校歌を歌って始めるとかっ。楽しすぎなんだけどっ」
「いやあ〜、一発目から盛り上がったなっ」
「ちょっ、さっきの動画撮っとけばよかったっ」
「あっ! ほんとじゃんっ! 歌うのに夢中になってたわ」
「ピアノ素敵だったよね〜。録音すればよかった……」
「それよっ。露ちゃんにもう一回やってもらうように頼んでみようっ」
「「「それだっ!」」」
テーブルごと、近くの人でそんな話で盛り上がっていた。
今は、この会場を借りたことなどの説明がされているが、半分以上はほぼ聞いていない。
そして、飲み物が行き渡り、乾杯がなされる。
代表は時島先生だ。
「『長い話は必要ないだろう。成長し、こうして再会できたことへ感謝を。乾杯!』」
「「「「「乾杯!!」」」」」
そうして始まったのだが、同窓会で必要なのは、自由に話せる時間だとのことで、そこに料理が運ばれて来れば一気に騒がしくなる。
「やばっ! めっちゃ美味しいんだけどっ」
「いやいや。まだサラダじゃん? 前菜じゃん? これで感動してたら次どうなんの?」
「これってさあ。結婚式の披露宴? みたいな感じよねっ。ちっさい時のおじさんの結婚式を薄っすら思い出したわ」
「ねえっ。ナイフとフォークの使い方ってこれでいいの? ちゃんとしたレストランとか行ったことないんだよね……」
「使い方? 使い方とかあんの? 食べれればいいんじゃないの?」
とても賑やかだ。会話なんて絶対に尽きない。久しぶりに会う友人との会食。そんなの興奮しないわけがない。
こうした経験などないのだから当たり前だ。
そんな中、落ち着いた雰囲気を見せるのが高耶だ。嶺が正面に座る高耶を見て呟く。
「……高耶……なんか慣れてる?」
「ん? なんでだ?」
高耶は少し首を傾げる。
「いや……食べ方綺麗だなって……」
そこに、俊哉がやって来る。今回、幹事は複数いるため、交代で食事も問題なく取れる。高耶の隣に、俊哉の席もあった。
そこに付きながら、代わりに得意げに答えた。
「高耶は、結構お高い店にも同僚のおっさん達に連れられて行ってるもんよ。それこそ、レストラン貸し切りにするような人に拉致られてさっ」
「「「は?」」」
満、嶺、槇が目を丸くする。
俊哉は食べながら高耶に話しかける。
「この前、蓮じいに連れて行かれた店は凄かったよな〜。ムニエルがめっちゃ美味かったとこっ」
「ああ。あれは美味かったな。トマトソースが絶品だった」
「そうそうっ。ソースが美味くて感動するとかっ。はじめての経験だったぜっ」
「あれから珀豪が、時間があれば研究してる」
「うわ〜、けどわかるっ。優希ちゃんにも食べさせたいし?」
「それが一番かもしれん」
「あははっ」
蓮次郎に呼び出しというか、お誘いを受けて食事に出る事は多くなり、その度に珀豪も是非となるのだ。
お陰で、珀豪の蓮次郎への好感度は高い。それが少し不気味だ。腹黒い所のある蓮次郎のことだ。裏を読みそうになるのは仕方がない。
「……え〜っと? 何? 金持ちのおじさんにメシ連れて行ってもらうとか?」
「俊哉も?」
満と嶺は不思議に思いながらも、推測する。そして、槇が高耶を見つめながら呟いた。
「……同僚? というか、パトロンか?」
「パトロンって。ああ、ピアノの?」
そうして答えるのはなぜか俊哉だ。
「ピアノのパトロンは俺、聞いてねえな。メシ連れてってくれるのは、高耶の同業者。ほれ、ここ来る時言ったじゃん。陰陽師ってさ」
「っ、ああ……それ、結構多いのか……?」
気になっていたのだろう。槇は真剣な様子で尋ねてくる。
「まあ、そうだな……一族単位だからな。それこそ、分家も多い。もちろん、素質があるなしってのもあるから、一代に数人だったりするけどな。けど家業だし、関わっているのは、結構な人数にはなる」
「……一族か……すごいんだな……あっ、それで蔦枝は……その一族の当主? すごいな。大変だよな……それ、いつからだ?」
ここぞとばかりに質問をしてくる槇。少しこの場にも慣れてきたようだ。
「当主になったのは十歳の時だ」
「それ……四年……の時……」
小学四年生だ。
「ああ」
「けど高耶。その……父親が亡くなったのって、五年の時だっただろ?」
声を抑えて問いかけて来たのは、満だ。
小学校の時に、同級生が親を亡くすというのは、かなりの衝撃がある。覚えている者は多いだろう。
「そうだな。当主になって半年ぐらいしてからだった」
「……え? でも、当主って普通、父親から継ぐだろ?」
この時、周りのテーブルの者達も、これに耳を澄ませていた。
どうやら、高耶のピアノを聴いたことで、かなり興味が出たようだ。『同級生、蔦枝高耶』を知りたいと思った者は多かった。
そこここで、今どうしてるのか。何をしているのか。どこの大学に行っているかなど、周りと話す声がしていた。
そんな中、高耶に話しかけようと、テーブルから離れて近付いて来ている者も多かったのだ。
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