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秘伝賜ります  作者: 紫南
327/449

327 最初から泣かせにいきます

2023. 6. 15

最終チェックも終わったらしい俊哉へ、高耶は声を掛ける。


「もうほぼ揃ったか?」


開始予定時間まで、まだ十分はある。だが、皆久し振りに会った友人達と話をしようと早めに集まっているようだ。見回したところ、ほぼ席は埋まっていた。


「おう。先生達まで予定より早く来るし、ちょい始めるの早めてもいいかもって感じ」

「なら、ちょいピアノいいか?」

「えっ、あっ……結構憑いてるのいるもんな」

「目え合わせんなよ?」

「分かってるって」


せっかく綺麗にした会場は、今や元通りに近いほど妖が多い。


人に憑いて来たのだ。悩みがない者はいないし、まだ生活に余裕のある大学生であっても、それなりに色々と抱えていたりするだろう。


元から憑いていたモノに惹かれて、この旅館内に居たモノがついて来たりもしているようだ。


「なあっ。弾く曲だけど、校歌いける? あっ、この土地じゃダメとかある?」

「いや。さすがに土地も近くないし、それ用の力込めなきゃ、別にただの曲だ」

「ならっ、いい!?」

「いいぜ。そうだな……最初はそれと分からない感じのアレンジで始めるか。五分くらいでいいか?」

「おうっ。よろしく!」

「ああ」


そうして、再び騒がしくなっている会場で、高耶はピアノに向かった。


「っ、わっ……蔦枝君のピアノ……っ」


始めに気付いたのは、会場の準備の時に居たメンバーだ。もう用意は万端。いつでも始められるとほっとしていた彼ら、彼女達は、会場の様子を見ていたため、高耶に気付いた。


BGMが消えたことに気付いた者は少なかった。キリの良いところで、丁度高耶のピアノが始まったのだ。


最初はどっかで聴いた事があるなという程度。ポップにアレンジしたものだ。校歌だとは気付かない。


寧ろ気付かせないようにと高耶の遊び心だ。


「ん〜? なんの曲だ?」


満が首を傾げる。高耶の居たテーブルのメンバーは、高耶がピアノを弾き始めたのも見ていたし、真剣に聞こうとしていた。


「聴いたことあるような? けど、ええ〜、有名なのじゃないよな?」


歌詞が出てこないと嶺と槇も考え込む。


そうして考え込んでいると、曲の感じが変わる。ジャズっぽく、なんだかソワソワするような、かっこいい感じだ。


「うへえ〜……なにコレ。めちゃくちゃかっこいいしっ」

「検索かかんねえわ」

「ってか、誰? あんなピアノ弾けるようなの同級生に居た?」

「やだっ、かっこいい……誰? 有名な人? ゲスト?」

「プロのピアニストを同窓会で呼ばないだろ」


そんな会話が聞こえてくる辺り、どうやら、かなりの人がピアノに気付いたようだ。


ただのBGMだと思っていたものが、ピアノの生演奏になっていたと気付いて、驚いている。


また曲が変化する。少し落ち着いたクラシックバージョンだ。


「えっ、あれ? まさか……」


気付く者が出始めた。


「え? これ、校歌じゃない?」

「うそっ。あっ、本当だ!」

「え? じゃあ、さっきのかっこいいのも?」

「それじゃんっ」

「すごっ! プロすごっ」


校歌だと誰もが気付いた頃には、高耶は全ての妖を祓い終わっていた。


少し祓うことで痛みを伴う者も居ただろう。古坂など特にだ。だが、この中で大袈裟に騒げるはずもなく、しばらく我慢している間にピアノの音に集中していた。


そうして、気付いたら痛みも嘘のように感じず、さっきのは何だったんだろうと首を傾げる。


しかし、すぐにピアノへと意識が向かい、それらを忘れてしまう。


「……やっぱすげえわ……」


俊哉の目には、面白いほどそれらの変化が視えていた。


そして、最後というように、高耶は校歌を正式なバージョンで弾き出す。


すると、懐かしいと笑いながら、皆が歌い出した。いつの間にか、校歌の書かれた紙が正面に掲げられている。それを見て、三番まである校歌を全部歌い切った。


「「「「「っ!!」」」」」


自然と、ピアノの音が消えると拍手が起きた。立ち上がって感動する者も多い。


「すげえっ! やばっ! 感動した!」

「やだぁっ、最初っから泣けるんだけどっ」

「マジで懐かしいっ。ってか、覚えてるもんだなっ」

「それそれっ。意外と覚えてるわっ」


そんな声の中、高耶が立ち上がると、更に拍手が起きる。


「ありがとなっ!!」

「凄かったっ!」

「感動した! 校歌で感動ってすごいっ」

「生演奏最高!!」


ほぼ全員が、同級生だと認識していなさそうだ。


これに気付き、俊哉がマイクを手にする。


「『演奏は、俺の大親友! 六年一組! 蔦枝高耶くんでした! 拍手!!』」

「「「「「えええぇぇっ!!」」」」」

「うそっ、蔦枝くん!?」

「あの!? ちょっ、あんなカッコよかった!?」

「……同級生とか……気付かんかった……」

「蔦枝って……蔦枝だよな? マジか……」


拍手が戸惑いでまばらになるのは、逆に笑えると、俊哉や満、嶺達は爆笑していた。


苦笑しながら、高耶は先生達に一礼して、席に戻る。


「『さあっ! お待ちかね! 同窓会を始めます!!』」

「「「「「っ、わぁぁぁっ!」」」」」


そうして、会はスタートしたのだ。




読んでくださりありがとうございます◎

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