表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘伝賜ります  作者: 紫南
294/449

294 軍配は上がりました

2022. 10. 20

相田優也は、間違いなく高耶のファンだ。


町中でばったり会ったら、運命だと一瞬にしてテンションがMAXになるくらいに。


どうしてここにと問いかけるより先に、嬉しくて証拠写真をと思うくらいに大好きだった。よって、今更ながらに気付いたようだ。


「はっ! もしかして、師範もモデルなんですか!?」

「ああ……」


そこで、そういえばと高耶は先程までの統二達の行動を思い出す。


「相田……優也は、妹がいるのか」


統二が言っていた相田という女子生徒。そう、同じ苗字もないだろう。その女子生徒が優也の妹かと当たりを付ける。


それは正解だったらしい。


「はいっ」

「妹がいるなんてはじめて聞いたな」

「あははっ。まあ、そうっすね。師範に紹介なんてしませんから。男兄弟でもいるって言わないっすよ。もちろん、妹に師範の事も絶対話しません!」

「……」


これは嫌われてないかと高耶は不安に思った。それを聞いて、改めて思い出してみても、指導している者たちの兄弟の話を、一度として直接聞いていないと気付く。


兄弟がいると伝わってきても、それを確かめることがなかった。その話に加わることもなかったのだ。上手くそれを避けられていた気もする。


もちろん、高耶にその話題を避けていたのは、彼らなりの理由があった。


「妹や姉なんて、師範を見たら一発で惚れますもんっ。それで師範の手を煩わせるとか、仕事の邪魔するとかあったら死にたくなるじゃないっすか!」

「……え……」

「うわ〜……」

「「さすが」」


意味が分からず戸惑う高耶。俊哉は、分かるけどそこまでかと感心。統二と二葉は同意するとはっきり頷いた。


「他の人たちもそうっすよ。何より、ライバル増えるの困るんで」

「……ライバル……?」

「はい! それなりに戦いはあるんすよっ」

「……」


どう反応すればいいのか、高耶には分からなかった。


そこで、統二と二葉が高耶の前に出る。


「統二? 二葉くん?」

「兄さんは何も言わなくていいから」

「寧ろ、話しかけるとか許す気ないんで」

「はあ……」


どうやら、相田という女生徒。優也の妹が近付いて来たようだ。しかし、統二達よりも先に、実の兄という検問があった。


「ちょっと兄貴。知り合いなの?」

「ん? ああ。けど、お前は話しかけるの禁止。頭が高い」

「はあ? な、なんでよ! 意味わかんない。妹だって紹介するだけじゃない!」

「師範に妹を紹介するのは協定違反だ」

「どこのよ!」

「色々だ。特に『思春期頃〜二十代の女』は要注意でな。お前はダメだ」

「だからっ、なんでよ!」


周りは、完全に見物に回っていた。高耶とお近付きになりたくても、知り合いの妹さえダメというなら、近づけない。


「この時点でダメなんだよ。俺に紹介しろってことは、知り合いである俺の妹っていう優位性を見込んでんだろ? 師範には、そんな俗物な感情で近付いて欲しくねえの」

「っ、それこそ意味分かんないわよっ」


相田という女生徒、今自分がどういう表情をしているか分かっていないのだろう。かなり必死の表情だ。あまり良い顔ではない。


「先ず、行儀良くしろ。遠くから見るのは許す。声かけは挨拶の範囲内のみ。写真は同意を得てから。気軽なお触りは当然禁止だ」

「どこのファンクラブよ!」

「師範のファンクラブだ。非公式だけどな!」

「なによっ、それ!」


充雪にファンクラブだと言われたことはあるが、完全に冗談だと思っていた高耶だ。


そこで、統二が口を挟んだ。


「相田さん。言ってましたよね? 兄さんには頼まれたって近付かないって」

「っ、それは……っ」

「気軽に話しかけられると思わないでください」

「そうそう。何より、自分で言ったことは、守らないとなあ」

「っ……」


統二と二葉に言い負かされ、悔しそうな顔をする相田。兄も味方にはならないと知り、睨んでいた。


そうこうしていると、全校生徒達が集まり始めたらしい。統二が担当の教師へ声をかける。


「先生。打ち合わせを始めないといけないかと」

「っ、あ、ああ。では、この後の流れの説明をさせていただきます」


そうして、この混乱はなんとか収めることができた。


その後、高耶が舞台に上がると、ものすごい歓声が響いた。さすがの高耶も驚いたほどだ。


思えば、ピアノを弾く所では、皆が行儀よく、無闇に騒ぐことはない。相手が立場もある大人だからというのもあるだろう。気絶する時も静かだというのは、聞いたことがあった。


こうした、若い子相手にというのは、高耶としては初めての経験だったのだ。


舞台を下りると、俊哉が笑いながら肩を叩く。


「いやあ、すごかったなあ。若いって怖いわ。見たか? 座り込んだ女の子とかいたぞ」

「……面白がるな……」

「いや、もっとドタバタ倒れるの想定してたからさ〜。あれか? あんま目向けないようにしてたのか?」

「……出る時に優也が、そうした方が良いって言ったんだよ……」

「マジかっ、ナイス! ファインプレー!」

「……」


やっぱり神気だろうかと、はじめて知る状況に高耶は内心、少しばかり混乱していた。


そうした落ち着かない心中に戸惑っていると、不意に、何かを感じた。


「……なんだ……?」


どこからだろうかと気配を探るも、次の打ち合わせ場所に案内すると言われ、断念する。


「……危ない感じ……ではないか……」

「兄さん? どうしました?」


統二が不思議そうに高耶の顔を見上げてくる。危機的な感覚はない。統二も気にしていないということなら大丈夫だろうと、問題も頭の端に寄せる。


「いや……で? 次は何をするんだ?」

「生徒会メンバーと、デザイナーとの顔合わせですっ」


嬉しそうな統二に手を引かれ、高耶はこの場を後にする。


その時、トクリと闇が拍動したことには気付かなかった。




読んでくださりありがとうございます◎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ